原野商法(二次被害)

事案 

 被害者は昭和40年代に、日光の土地を購入した。当時は山林であったが、切り開いて平地とし、毎年、業者に費用を支払って長年管理を続けてきた。最近では近隣に住宅もいくつかあり、駅が近いこともあって、住宅地化し、実勢価額も上がってきた。
 不動産会社の社員を名乗る者が自宅に電話してきて上記日光の土地を「600万円位で購入したい人がいるので是非打ってほしい」と売却を持ちかけた。社員は「手数料として50万円かかります」「税金が掛からないようにするのであと350万円支払って下さい」「売買が終われば全てお金は返ってきます」などと被害者に400万円を支払わせた。期日が来てもお金が支払われないのでおかしいと思って相談してみると、日光の土地を売却する契約書だけでなく、別の軽井沢の土地を1000万円で購入する契約書に署名・押印させれていた。被害者が支払わされたのは、契約書上はその土地の売買代金の「差額」であった。

解説
 原野商法とは、原野や山林を、将来値上がりが見込めるかのように勧誘して、原野や山林の実勢価格の数十倍の高値で購入させるというものであり、1970年代から1980年代に多くの被害が見られた(一次被害)。 

 一次被害に遭った方をターゲットとして、測量代や管理費を支払わせる類型の二次被害も発生した。

 近時は、数十年前に購入した土地を「高く売れる」「高額で購入する」と勧誘し、それとは知らせずに、それより高い金額で原野や山林を購入させるという、いわば売却勧誘を経ての「交換型」の被害が目立つ。被害者は複数の契約書に署名・押印させられていることを認識していないことも多く、「お金は全て最後に戻ってきます」などという欺罔行為によって錯誤に陥っている。

 原野商法(二次被害)を行う詐欺実行者たちは、法人について宅地建物取引業の免許を取得し、専任の宅地建物取引士を備えるなど、それらしき外観を整えている。しかし、実際には法人代表者は名義貸し、宅地建物取引士も名義貸し、詐欺実行者たちの名前は表に出さずに行っている実態があるとともに、半年~1年間程度で廃業届けを出して所在をくらませる例も多数あり、逃げ足が早く、常に被害回収の困難さと隣り合わせである。

被害救済に向けて
1 保証協会からの弁済業務保証金受領
  宅地建物取引業を営む宅地建物取引業者は営業保証金を供託しなければならない(宅建業法25条)。もっとも、営業保証金の供託に代えて、保証協会に加盟し、弁済業務保証金を納付する方法が認められている。この場合、保証協会が認証をして、弁済業務保証金を支払うことになる。
  認証の第一歩は保証協会に対する苦情申立である。必要な書類を保証協会に提出することになる。当該宅建業者を呼び出してまず事情を聞き、調停のような解決を目指すようであるが、原野商法を行っている当該業者はまず呼出しに応じない。続いて、被害当事者からの聴き取り、認証の手続に入るようであるが、このプロセスは不透明であり、時間もかかり(順調に行っても半年以上)、満足な結果となるかどうかも不明である。
  認証は苦情申立の順位が重要であり、第1順位の申立人に1000万円の認証がなされれば、第2順位以下の苦情申立人への分配はゼロとなる。

2 損害賠償請求
  前述したように原野商法(二次被害)を行う詐欺実行者たちの逃げ足は早い。名義貸しをしている代表者や宅地建物取引士の個人責任を追及することが検討の対象となる。宅地建物取引業には必ず専任の宅地建物取引士が必要であるが、場合によっては「名義を勝手に使われた」などという主張をしてくることもある。まず、保証協会登録時の専任の宅地建物取引士は代表者とともに、保証協会の担当者の面談調査を受けるのであって、「名前を勝手に使われた」との主張は成立しない。2人目以降の専任の宅地建物取引士や専任でない宅地建物取引士については、関与の程度を十分に調査する必要があろう。
  なお、小職が原告代理人として対応した事案では会社や代表者、実行行為者の賠償責任が認容された(東京地判平成29年4月22日公刊物未登載)。また、名義貸しを行った宅地建物取引士に対して損害賠償責任を認めた裁判例として秋田地裁大曲支判平成29年9月22日(公刊物未登載)がある。

3 登記の引取請求
  前述のような土地売却勧誘を装った「交換型」被害の場合には、売買の無効や取消を主張することを検討する必要がある。実益としては売却にかかる所得税や不動産取得税、毎年かかる固定資産税の負担を免れることにある。この類型の訴訟は、被告が訴訟対応せずとも、判決を得て、所有権移転登記の抹消登記手続を行えることに意味がある。
  請求の趣旨は下記のとおり。同様の請求を求めて小職が原告代理人として担当した事案として東京地判平成29年11月21日(公刊物未登載、認容)がある。
  「被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地につきなされた○○地方法務局○○出張所平成30年○月○日受付第○○号の所有権移転登記の錯誤を原因とする抹消登記手続きをせよ。」

4 クーリングオフ
  宅地建物取引業者による宅地の販売であれば宅建業法37条の2に基づく請求、そうでない場合には特定商取引法9条によるクーリングオフの利用を検討する余地がある。
  しかし、前者は、宅地の引渡を受け、かつ代金の全額を支払ったときは適用除外とされるので、実際には適用できる場面は多くないと解される。後者については、売買の対象が「原野」であることが前提となるため、保証協会の認証申出との整合性を検討する必要がある。
  既に代金を業者に支払ってしまった場合は、逃げ足の速さとの関係で被害回復につながるかどうかを検討する必要がある。