フランチャイズ問題

フランチャイズ問題について

1 加盟前相談・開業前相談・独立開業支援
  我が国においては、中小小売商業振興法や独占禁止法(公正取引委員会のいわゆるフランチャイズ・ガイドライン)がフランチャイズの一部の規制を担っているものの、フランチャイズを実効的に規律する包括的法規制はなく、加盟希望者の保護が未だ十分ではありません。加盟金を支払わせ、開店後は何の経営指導もしないという詐欺的フランチャイズ本部も多々見受けられます。他方、加盟後に紛争となった場合には、フランチャイジー(加盟者)は消費者ではなく、「事業者」であると形式的に理解され、その解決には困難を極めることも少なくありません。
  十分な情報収集に加えて、契約書の条項に潜む重大なリスクや、想定される様々な法的トラブルについて、まさに契約締結「前」にフランチャイズ実務やフランチャイズ訴訟に精通した弁護士に相談することが何よりも肝要です。米国の法律家向けの実務書であるFundamentals of Franchising, p292 には、弁護士は加盟を希望する相談者に「フランチャイズにおけるミランダ警告を与えよ」と記載されています。本来の意味のミランダ警告とは、刑事被疑者に対する黙秘権などの権利告知のことをいいます。アメリカ映画などでは、警官がミランダ警告を告知しながら、逮捕するシーンなどによく見られます。ここでの意味は、相談を受けた弁護士は、フランチャイズ加盟希望者に対して、「経営リスクがある上に成功の保証もない」とか、「長時間労働を余儀なくされる」等の不利益を事前告知しなければならないという趣旨で使われています。当職の経験でも、紛争になってからの本部側社員の言動や、訴訟における対応をみるにつけ、加盟を決める前に是非ともこれらの本部の「本音」を知っておくべきだと、常々感じております。昨今、従業員の労働者としての権利を無視して酷使・搾取し、辞めると次から次へと新社員を募集する「ブラック企業」が問題とされていますが、残念ながらフランチャイズにおいても、加盟金だけ支払わせて後は一切何もしないという加盟者を搾取しているとしか言いようがない「ブラック本部」が存在します。本部や本部よりの仲介業者からは決して聞くことができない、実例に即したフランチャイズ加盟の実情を是非お伝えしたいと思います。
  本部と契約締結するその前に、フランチャイズ相談窓口として当事務所の初回法律相談(1時間まで1万1000円)をご利用ください。契約条項のチェック、法定開示書面の読み解き方、当該フランチャイズ本部の紛争情報など、多数の紛争や訴訟に対処してきた当職にしかなし得ない実践的な助言をいたします。急を要する加盟者あるいは加盟予定者のご相談の場合にはメールでも応じます(有料相談)。遠方のため、来所が難しい方は、拙著「コンビニはどうなる ビジネスモデルの限界と“奴隷契約”の実態」2020年花伝社、「失敗しないフランチャイズ加盟-判例から読み解く契約時のポイント」2011年日本加除出版の一読をお勧めします。フランチャイズ加盟を考えている方のご家族、あるいは加盟にあたって保証人となることを求められている方にも是非目を通して頂きたいところです。開業後、「事前の説明とは違った」と法律相談を受けられる加盟店オーナーは多数いらっしゃまいますが、残念ながら契約前に相談にいらっしゃる方は極めて少ないのが実情です。ここには記載することはできませんが、「ここだけは止めた方がよい」フランチャイズ本部はいくつもあります。「こんなはずではなかった」と後悔する前に是非、加盟前に法律相談を受けて下さい。


2 経営に際して発生する法律問題
  加盟店(フランチャイズ)契約締結後は、フランチャイジー(加盟店経営者)はフランチャイズ本部とは対等の、独立した事業者として、起こりうる様々な法律問題に自ら対処する必要があります。フランチャイズ本部との関係でいえば、本部の経営指導が不十分である、ノウハウや商品の提供が不十分・不適切である、加盟店の独立を無視した押しつけがあるといったフランチャイズ契約の根本に関わる問題が起こりえます。また、仕入先との継続的商品売買契約に関する問題、従業員との労働問題、顧客との売買契約ないし役務提供契約に関わる問題やトラブル・クレームへの対応等、独立の事業者としての自前の企業法務を確立し、自ら経営や権利を守る必要があります。
  事前の説明とは異なり、本部が何一つ指導してくれなかったり、実際には本部に全くノウハウがなかったりすることも多々あります。税務や会計について税理士や公認会計士の助力を求めるのと同様、契約期間中、長期にわたり適切に法律問題に対応するには法の専門家である弁護士との継続的な関係を作っておく必要があります。何か問題がが起こってからではなく、予防的に弁護士に相談することが結果的にはコストや経営リスクの低減にもにもつながります。

3 契約終了をめぐる問題
  本部の過大利益予測に基づき契約した場合には赤字のため経営が維持できなくなり、被る損害も多額に及ぶ可能性があります。本部の経営指導が不十分である場合にも同様の問題がありえます。しかし、中途解約をしようとしても、契約に、多額の違約金規定が設定されていたり、あるいは解約後の競業禁止義務が定められていることも多く、脱退したい、辞めたいと思ってもままならない事態は少なくありません。こうした場合、紛争の解決に訴訟等の法的手続きを必要とするハードケースとなることもまれではありません。近時は、加盟店の些細な運営上のミスを更新拒絶の理由とするといった事例が増えています。大切な店舗を守るためには、しっかりとした法的知識と戦略的な対応が必要となります。商売がうまくいっている場合であっても「出口戦略」を自分で考える必要があります。「出口戦略」を本部社員が教えてくれることは絶対にありません。
  法的手続が必要となる場合にはフランチャイズ実務やフランチャイズ訴訟に精通した弁護士への相談が必須であると考えます。当事務所は、代理人としての交渉のみならず、顧問契約に基づく継続的助言や後方支援という形での受任実績があります。最近の事例としては本部から些細な口実で解約を迫られ、金曜日の夕方に合意解約書にサインを迫り、日曜日中に署名しないと違約金を請求すると脅され、抗しきれなかったというものがあります。顧問契約を締結するなどしていつでも相談できる弁護士がいないとしたら、どうやって対処しうるでしょうか。大切なお店を守るためにも是非顧問契約を検討して下さい。代理人として違約金無しでの合意解約に向けて交渉する、あるいは更新に向けて後方支援をするといった方法でオーナーのサポートやバックアップを行っています。実際に、当初はロイヤルティ数ヶ月分の違約金を請求されていたが、当職が代理人として交渉することによって支払わなくて済む合意ができた、更新しないと通知されていたが、本部が態度を変え、無事更新することができた、という成果を上げています。

4 保証人をめぐる問題
  フランチャイズ本部が加盟店契約に際して連帯保証人を徴求する例は少なくありません。保証人となる方は家族であったり、情宜で断れずになることが多いといえますが、時に数千万円という恐らくは就任時には考えもしなかった金額の請求を受けるおそれがあります。当職の取扱事例でも数年前にオーナーの自己破産を取り扱った事例で、平成25年にコンビニ本部から 2千万円を超える請求書が保証人に届いたという事案があります。その事案は契約書の内容が民法改正に対応していなかったため、対抗する法理論を見つけることができましたが、そうでなければ、保証人は経済的破滅に追い込まれました。家計を一にしていない保証人の場合には突然、生活の全てを破壊されるということにもなりかねません。保証人になることのリスクを知り、慎重な判断をされるようお勧めします。概して、フランチャイズに加盟する方は真面目なオーナーが多く、低い売上高であっても、夜間一人で黙々と働き続け、インターネットで情報を検索する余裕すらないということもあります。その場合は、家族や保証人の方が本ホームページの存在をオーナーに教えたり、拙著「コンビニはどうなる ビジネスモデルの限界と“奴隷契約”の実態」2020年花伝社、失敗しないフランチャイズ加盟-判例から読み解く契約時のポイント」を手渡すことも考えて下さい。追い込まれてほとんど手段が残っていないとなる前に手を打つ必要かあります。2020年4月1日に施行された改正民法は、第三者保証に関する規制を強化し、事業のために負担する貸金等債務を主たる債務とする保証人となる場合には、事前に公証人が作成する保証意思宣明公正証書を経ていない場合には無効としています。第三者保証人の徴求には厳格な要件を要求することによって、実務的に煩瑣に耐えないことから第三者保証という制度を使わせないよう誘導するものです。この厳格な要件を要求してまで第三者保証人を徴求するようなフランチャイズ本部は避けるに越したことはありません。また、主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者は適用除外とされているため、一層の注意が必要です。

当職は2000年から継続的に加盟店オーナーからの相談や紛争処理、訴訟を常時受任しております。セブン-イレブン・ジャパンに対するロスチャージ訴訟、請求書開示事件や見切り販売妨害独禁法25条事件、ファーマーズファクトリー事件、メディアック事件等、判例集に登載されている著名事件を含めて、加盟店側代理人として訴訟対応した件数だけでも80件超です。フランチャイズという専門的分野においては、一定件数以上の事件を処理した経験がないと、当該事案の見通しを的確に立てられない可能性があります。当事務所は、加盟者・フランチャイジーの方の相談や依頼に応じますが、本部・フランチャイザーの相談や依頼はお断りしております。加盟者の方がいつでも安心して相談できるよう努めております。初回法律相談は1時間まで1万1000円です。遠方の方はZOOMでも対応可能です。

フランチャイズ本部側も受任する法律事務所であなたは安心できますか。

フランチャイズ事案を取り扱うという法律事務所でも、加盟店側だけでなく、フランチャイズ本部側の相談も受けるという例を見かけます。あなたは、そのような事務所に安心して相談や依頼が出来るでしょうか。当事務所は、20年以上、一貫して、加盟店側のみ相談を受け、また加盟店側のみの代理人として対応しています。


相談事例

Q.契約締結時に注意すべき事項
  あるフランチャイズ本部とフランチャイズ契約を締結する前提で交渉を進めています。契約にあたってど のような点に留意すべきでしょうか。

A.一般に、フランチャイズは、個人が単独で独自に事業をする場合に比べて、本部(フランチャイザー)のノウハウの提供や指導を受けて経営上のリスクを低減しうる利益があるとされています。フランチャイズ本部が提供するノウハウは、実証済み・検証済みの既に確立されたものであると通常考えられており、加盟者(フランチャイジー)はこれを信用してフランチャイズ契約を締結する訳です。加盟者のフランチャイズ本部に対するロイヤルティ(チャージともいいます)の支払は、加盟店の経営失敗に対するリスクヘッジの対価であると経済学的には把握されます。
 しかし、現在の我が国においては、フランチャイズを実効的に規律する法律がなく、加盟希望者の保護が十分ではありません。まさに加盟金を集める目的だけの詐欺的フランチャイズや検証もされていない(ノウハウの確立されていない)ブランドを安易にフランチャイズ展開する例もまま見られます。紛争となった場合には、素人が騙された場合でも裁判所は実態を直視することなく、安易にフランチャイジーが「事業者」であると形式的に理解し、本来あるべき望ましい解決にはつながらないことも想定されます。
 結論としては、加盟店希望者は、十分な時間をかけて慎重に情報を吟味し、「まともな本部かどうか」を自ら判断することが求められているものといえます。「本部の担当者を信用したら騙された」では、人生を棒に振ることになります。たとえば立地に不安があれば立地調査の専門家に調査を外注し、契約上の疑義があれば、調印する前に法律家に相談すべきです。人生をかけた契約ですから、念には念を入れるべきで、そのための出費は必要経費と考えるべきです。契約の内容いかんではたとえ「売上不振」を理由に閉店をする場合にも本部から莫大な違約金条項が適用されることもありえます。保証人を徴求されている場合には数千万円もの請求が保証人に対してなされることもありうることと想定して慎重に交渉を進めるべきです。本部が作成する契約書は一読しても中々その内容を正確に理解することが困難な内容であることが多いため、事前に弁護士に検討してもらうべきでしょう。なお、加盟店希望者が契約前に知っておくべき知識やチェックポイントについては拙著「失敗しないフランチャイズ加盟 判例から読み解く契約時のポイント」(日本加除出版、2011)に詳細を記載していますので、ご一読頂ければと思います。
  

Q.フランチャイズ本部の情報提供義務
  あるチェーンのコンビニ店を経営をしています。契約締結前に、コンビニ本部が候補店の立地調査を行い売上高は「日販60万円」、手元に残る1ヶ月間の利益は「80万円」という損益予測を示されたので、これを信用して契約を締結しました。ところが、実際に営業を始めてみると、日販は35万円にも達しません。夜中も必死に働いているのですが、生活費も残らない状況です。どのように対応すべきでしょうか。

A.コンビニに限らずフランチャイズ本部が、加盟店の店舗数拡大を急ぐあまり、実際よりも売上高や利益の数値を高く示したり、そうでないとしても不正確・不適切な情報を加盟店希望者に示すことは決して少なくありません。
 フランチャイズ本部が加盟店希望者とフランチャイズ契約を締結する過程における法的規制としては中小小売商業振興法が書面交付義務・記載事項を定めて一定の説明義務を定め、また公正取引委員会が「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法の考え方」というガイドラインを定める他は、法的規制がありません。もっとも、フランチャイズ本部が加盟店希望者に対して、客観的で正確・適切な情報を提供する義務(情報提供義務)があることは、裁判例及び学説を問わず概ね認められているところです。
 この点、フランチャイズ本部がこれまでの店舗出店経験から確立されたノウハウに基づき、調査を踏まえた合理的な売上・利益予測がなされていれば、たとえ実際値とズレが生ずるとしても一定の範囲の誤差にとどまるはずです。予測値と実際値の乖離が著しい場合には、情報提供義務違反の疑いが高いといえます。
  裁判例でも、平成14年5月7日金沢地裁判決(デイリーヤマザキ対加盟店)は「売上実績は、予測の60%に過ぎず、この差は、誤差として通常予想されている範囲を超えているという他なく、翻って被告(=本部)による立地調査が十分でなく、売上予測が合理性に欠けているものであったことを推認させる」とし、また平成14年10月4日大阪地裁判決(ファミリーマート対加盟店)も売上実績が予測の6割にも達しないような乖離が著しい事案で本部の情報提供義務違反を認めています。
 フランチャイズ紛争の事案で本部の情報提供義務違反を認定した近時の公刊裁判例をみると、大阪市内でパソコン教室を開業しようとしていた加盟者に、神奈川県内の特定の店舗の実績値を提示することは、大阪市内で同様の売上高を見込める状況でなかった以上、契約を締結するか否かについて的確な判断が可能な客観的かつ正確な情報を開示したことにはならないとした事例(横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁)、自動車の洗車場業で月間平均売上高シミュレーション月270万円と提示したが、実際には月200万円にも達しなかった事案で、商圏分析を誤ったため合理性に欠ける立地評価がなされたとした事例(大阪地判平成22年5月12日判タ1331号139頁)、菓子店で1258万円と提示された売上予測が実際には月500万円台であったことが、商圏におけるシェア率を過大に見積もったため売上予測を誤ったとされた事例(大阪地判平成21年2月5日判時2071号76頁)、コンビニエンスストアで損益分岐点を下回る売上予測を隠蔽した事例(福岡高判平成18年1月31日判タ1216号172頁)、コンビニエンスストアで既に閉店していた近隣の移転前旧店舗の実績値を隠蔽した事例(仙台地判平成21年11月26日判タ1339号113頁)、必要な初期投資額を適切に説明しなかったことにより加盟店に損害を与えたと認定された事例(千葉地判平成19年8月30日判タ1283号141頁)などがあります。

 このまま単に営業を続けるだけでは事態が良くなるどころか、多重債務者への道を進むことにもなりかねません。中途解約の是非も含めて、1日も早く信頼できる弁護士等の専門家に相談された方がよいでしょう。契約に際してのポイントとしては、本部から提示された数値を単に「八掛け」にして検討したところで何のリスクヘッジにもなっていないことを指摘できます。

Q.売上・利益予測と実際の数字の乖離
  コンビニ本部が私に契約締結前に示した損益予測によると、月々のアルバイト人件費が「月70万円」で済むということでした。私は都市部における昨今の時給単価からみてこれは少し低すぎるのではないかと尋ねたのですが「この人件費でできるのが当本部のノウハウです。」「ノウハウの中身は契約していない人には示せません。」と言われ、最終的にはこれを信用して、契約しました。しかし、実際に経営してみると、日々の作業量が多く、これを廻すだけのアルバイトを配置するとどうしても「月110万円」程度の人件費がかかります。店舗指導員に相談しても、「オーナーの労働が足りません。自ら深夜のシフトに入って、人件費を削ってください。」というばかりです。騙されたようで納得がいかないのですが。

A.フランチャイズ本部と加盟希望者との間には、店舗経営に関する情報・知識・ノウハウ等の点で圧倒的格差があるため、加盟希望者は契約を締結するかどうかを本部から提供される情報を基礎として判断することになります。その際加盟希望者が最も重要視するのは、当該店舗の売上・収益予測でしょう。
  契約締結前の段階でのフランチャイズ本部の加盟希望者に対する、情報提供義務違反や説明義務違反が争われた事案は多数あり、一般論としては、裁判例は一貫して、フランチャイズ本部が信義則上、加盟希望者に対して、的確な情報を提供する義務があることは認めています。本件では、コンビニ店経営における費用面では大きな割合を占める人件費の見積もりに関する点が争点となると思われますが、の見積もりが合理的であるのか、実績に基づいているのか等が問われることとなるでしょう。
  一般にコンビニ本部が希望者に提示する予測利益の人件費見積もりは相当低めに押さえられています。売上高に一定割合(例えば6%~7%)を乗じたものをベースとする算定方法の場合には、売上高が低い場合にはかなり乖離が発生する場合があります。また、そうでなくとも作業量に最低賃金を乗じたものをベースとする場合にも、オーナーと家族がシフトに入って作業することが既に組み込まれていること(例えば休みなしで1日2人で計18時間)もあります。予測と「月40万円」も違っては、利益を出せるはずもなく、アルバイトの時給支払いを抑えるために深夜・長時間、オーナーや家族が自分でシフト作業をするしかない、という悲惨な労働状況にもなりかねません。
 何より、加盟前の慎重な検討と事前相談が大切ですが、上記のような事態に陥った場合には、解決策を求めて1日も早く弁護士等の専門家に相談されることが先決です。

Q.フランチャイズ本部の指導援助義務
  私の店舗から100メートルと離れていない場所に、他チェーンが競合店を出店しました。当該競合店は本部の支援を受けているらしく、品揃えも相当力を入れており、キャンペーン時には人員の応援まであるようです。他方、私の店舗では競合店開店時以降、それ以前と比べて明らかに売上高・利益とも20%ダウンしています。店舗指導員に言っても、「本部に聞いてみる」というだけで何の対策もしてくれません。
 A.加盟店は、契約期間中継続してロイヤルティを支払義務を課されていますが、他方、本部は加盟店に対して「パッケージとしてのノウハウ」を提供する義務があるといえます(双務契約・有償契約)。
  本部から適切な経営指導を受けることを期待してこそ加盟店はロイヤルティを支払うのですから、本部の加盟店に対する指導援助義務はフランチャイズ契約における本部の本質的義務であり、これを提供しないことは、本部の加盟店に対する債務不履行(不完全履行)になると解されます。
  裁判例では、子供服のフランチャイズ本部(キャロット)と加盟店の訴訟で近時だされた名古屋高裁平成16年3月4日判決が極めて興味深い判断を行なっています。事案は、近隣に大型スーパー(イトーヨーカ堂)が開店したことをきっかけとして加盟店の売上高や利益率の低下したことに対して加盟店が損害賠償を求めたものですが、売上高の低下に関しては、大型スーパー開店による競争激化、社会経済情勢の影響による一般的な消費の低迷の影響もあるとして経営指導・経営援助との因果関係は認めなかったものの、利益率低下に関しては、「本件契約のしくみ(=加盟店に仕入の裁量がなく、売れ残り返品も制限されている事などを指す。引用者注)及び指導、援助の状況等に照らし、キャロットの指導、援助義務違反による影響を肯定せざるを得ず」「利益率の低下による損害を賠償すべき」と認容しています。
  本件でも、本部に対して適切な指導援助を求めることができると解されます。何ら対策を採らない本部は、そもそもノウハウがない、あるいは「パッケージとしてのノウハウ」を提供するフランチャイズ契約の本質を理解していない可能性があり、弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。

Q.「ロス・チャージ」問題
  毎日、本部から弁当類について欠品がないように品揃えを強化し、ある一定金額以上の廃棄を出すよう指導されています。毎月の損益計算書をみると、この廃棄分についてもチャージを徴収されているような気がしますが、本部指導員は「廃棄ロスからはチャージを徴収していません」と言われます。契約書をみても、売上総利益に一定率を乗ずるとしか書いていないような気がします。一体どのように考えたらよいのでしょうか。

A.我が国のコンビニ本部の大多数は、ロイヤルティ(チャージ)算定の方式として、「売上総利益」(一般に「荒利」とか「粗利益」などと言われています。)をベースとしてチャージ率を乗ずる、「荒利分配方式」を採用している、と説明しています。チャージ率は本部によって異なるものの、50%前後といった極めて高額なチャージ率が乗ぜられることも少なくありません。
  しかし、コンビニ本部がチャージ率を乗ずる基礎となる「売上総利益」の計算方法は特殊であり、注意する必要があります。
  中小企業者の事実上の会計基準となっている税務会計や、企業会計原則においても、基本的には「売上総利益」は「売上高」から「売上原価」を差し引いたものと規定されています。
  コンビニ本部は、控除項目たる売上原価から、在庫棚卸において万引き等で無くなった商品の原価(棚卸減耗損「廃棄ロス原価」などと呼ばれています。)および廃棄された商品の原価(「廃棄ロス原価」などと呼ばれています。)を控除して、チャージ率を乗ずる対象を算出しています。すなわち、通常の売上総利益にちょうど棚卸ロス原価及び廃棄ロス原価を加算しているため、売上総利益を基礎とする場合に比べて(棚卸ロス原価+廃棄ロス原価)×チャージ率分だけ多くなります。ロス分を加算してチャージを賦課していると把握できるため、これを「ロス・チャージ」問題と呼ぶことがあります。
 ア  通常の税務会計上の場合
 売上総利益=売上高-売上原価
        =売上高-(期首在庫棚卸高+期中仕入高-期末在庫棚卸高)
 イ コンビニ本部が行っている計算
   「売上総利益」(本部の主張するもの)
         =売上高-純売上原価
         =売上高-(売上原価-廃棄ロス原価-棚卸ロス原価)
         =(売上高-売上原価)+(廃棄ロス原価+棚卸ロス原価)
         =売上総利益+(廃棄ロス原価+棚卸ロス原価)
 ウ まとめ
  イの計算はアの計算に比べて、(廃棄ロス原価+棚卸ロス原価)分だけ多い。この分だけ、チャージ対象額が増えています。こうした特殊な計算方式をしているのに、本部が加盟店に十分に説明しないどころか未だに「ロスからはチャージを徴収していない」という説明を続けています。
   この問題が、契約の解釈問題として争われたのがセブン-イレブン・オーナーが本部を提訴した最判平成19年6月11日(判例タイムズ1250号76頁)の事案です。この事案は、下記のような条文の契約条項の下で、コンビニ本部が、Bのような計算方式を採用するという解釈が許されるのかが争われました。 
  第 A 条 (チャージ)
  乙は、甲に対して、加盟店経営に関する対価として、各会計期間ごとに、その末日に、売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの。)にたいし、付属明細書に定める率を乗じた額をオープンアカウントを通じ支払う。
  付属明細書
  営業費とされるものは、A―定量の品べり(棚卸減)の原価相当額、B不良・不適格品の原価相当額をいう。

  上記条文では、売上総利益の定義として「売上高から売上商品原価を差し引いたもの」という記載しかなく、肝心の「売上商品原価」とは何かとはどこにも定義されていませんでした。したがって、この条項を税務会計にいう売上総利益(売上高-売上原価)であるとオーナーが理解したのも、もっともなことです。
  最判平成19年6月11日は、売上総利益の意義が二義的であることを前提として、「契約書の特定の条項の意味内容を解釈する場合、条項中の文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る過程等の事情を総合的に考慮して判断すべき」とし、契約締結に際しての説明や付属明細書の営業費の規定などに照らして、「上告人(※セブン-イレブン)方式によってチャージを算定することを定めたもの」と判断し、加盟店勝訴の前記東京高判平成17年2月24日金融・商事判例1250号33頁)を破棄し、加盟店の錯誤の可能性について審理させるため差し戻しました。なお差戻審は錯誤無効を結局認めず、加盟店の請求を棄却して確定ています(東京高判平成19年12月27日、公刊物未登載)。この問題は、同種事件として全国で10件程度提訴され、そのうち複数の案件については当事務所も加盟店側代理人として関与しました。結論には疑問を覚えますが、最高裁判決によって同本部の契約の解釈問題としては一応の決着をみています。
  この問題は、純然たる会計用語と、契約条項がコンビニ本部が現に使用している用語(独自の概念)とが同一契約条項に混在し、理解を困難にさせていることに加えて、弁護士や裁判所も、必ずしも会計に精通している訳ではないため、用語の整理をしないまま議論をしているため、一層の混乱を招いている感があります。
  いずれにしてもこの問題に関しては本部指導担当社員に聞いても加盟店にとって分かりやすいな説明をしてもらうことはほとんど期待できないため、加盟店オーナー自身が他のオーナーや専門家にも問い合わせるなどして積極的に情報を収集、意見交換を行ない、十分に理解した上で、自店の経営方針に反映させるべきものといえます。

  なお、米国のセブン-イレブンの契約書では、売上原価から廃棄商品にかかる原価を全て控除するとは記載されておらず、「加盟者側に責任のある廃棄」商品にかかる原価のみを控除すると記載されています。そこで、2014年4月28日、日弁連シンポに出席するため来日したハシム・サイード氏(FOAC理事・セブン-イレブンオーナー)に対し、 米国の契約書で、売上原価から控除することになっている「加盟者側に責任のある廃棄」につき「消費期限切れの商品」が入るのであれば廃棄に関するいわゆるロスチャージ問題について日本と同様の問題状況となるため、これに入るのかどうかについて個人的に質問したことがあります。ハシム氏の回答は「入らない。消費期限が切れることはフランチャイジーの責任ではないから。」というものでした。
  売上高におけるファーストフードの割合は米国では日本ほど高くないこともあり、日本におけるロスチャージ問題は米国のセブン-イレブンでは実際には発生していない、ということのようです。韓国のセブン-イレブンにおいてもやはり弁当類の売上割合は少ないため日本と同様の問題状況にはないようです。



Q.会計代行問題
  毎日、コンビニ経営で得た売上金を本部に送金していますが、本部は仕入先に対してどのように決済しているのでしょうか。本部が作成する帳票類に記載されている商品の「仕入価格」は、チェーン全体のバイイングパワーを考えると高すぎるような気がします。実際、近くの小型ディスカウントスーパーでは、全く同じ商品が、当店の「仕入価格」よりも安い売値で売られていたりします。本当に、本部はこんなに高い仕入れ価格で仕入先に支払っているのでしょうか。自店の仕入れ商品なのに、相手にいつ、いくら支払ったか分からず、領収書も出ないということに問題はないのでしょうか。

A.我が国のコンビニチェーンの多くにおいては、加盟店は商品を、原則として本部からは仕入れることはなく、本部が推薦・推奨する仕入先から加盟店が直接購入する仕組みが取られています。他方、お金の流れをみると、契約上加盟店の売上金(1日あたり50万とか70万円等)は、翌銀行営業日には、本部に送金しなければならないとされています(売上金送金義務)。加盟店と仕入先との直接の売買契約であるのに、決済だけは、加盟店が日々預けた売上金から本部が支払代行を行っている訳です。
  コンビニ本部は前もって加盟店から送金を受け、仕入先への支払は、商慣習に基づき後払い(例えば月末締め翌月20日払等)であるため、常に巨額な資金をプールしていることになります。他方、加盟店オーナーは、自分のお金でありながら資金のやり繰りにも使えない訳です。
  加盟店と仕入先の直接の売買契約であるにもかかわらず、いつ・いくらを支払代行しているのかの報告も、請求書や領収書も発行されないというのはかなり問題があるといえます。自店の経営数値であるにもかかわらず、本部が作成する帳簿類が正しいかどうかの検証すらできないのでは、独立した事業者と呼ぶことも憚られます。
 上記のような仕組みの下にあっては、例えば本部による「中抜き」のような不正行為があってもその検証すらできないとして加盟店オーナーが本部を相手取って支払代行の詳細の報告を求めた案件があります。最判平成20年7月4日(判例タイムズ1285号69頁、判例時報2028号32頁)です。同判決は、本部の行なっている加盟店の仕入代金の支払いに関する事務の委託は準委任(民法656条)の性質を有するとした上で、契約条項に明示の規定がなくとも、受任者の報告義務(民法656条、645条)に基づき、これらの報告を本部に求めることができると判示しました。
 報告内容の範囲の審理のため差し戻しとなり、その差戻控訴審判決が平成21年8月25日に出されています(消費者法ニュース81号356頁)。同判決は、本部は加盟店オーナーに対して、支払代行にかかる受任者として仕入報奨金(リベート)の受領内容を含めた詳細を書面で報告する義務があることを認めています。とりわけ、本部が開示を拒んでいたリベートの詳細につき、加盟店が本部を通じて仕入先から受けとったリベート額を知ることは当然の権利であり、これを全く秘密にしていること自体が問題であると言及したことが注目に値します。もっとも、本部の加盟店への報告内容にかかる費用を加盟店負担としている点については、既に本部が加盟店から徴収しているチャージで支払代行その他の役務提供の対価と評価され尽くしていると考えるべきではないかといった疑問があり、また報告の費用負担をめぐって現場での混乱を招く可能性も残りました。
  いずれにせよ、加盟店が経営に関するこうした基本的情報の開示(会計代行処理の透明化)を本部に求めることは正当な要求というべきであり、本来、このような判決を待たずとも、オーナーが開示を求める内容についてはコンビニ本部は全て開示すべきものといえます。

Q.見切り販売問題
  毎日の営業の中で主力商品である弁当やおにぎり類ですが、コンビニ本部は「機会損失を防ぎなさい」として、いつも多めの発注を指導しています。当然ながら売れ残ること多いので、販売期限が近づいた商品は見切り(値下げ)して売りたいと思うのですが、本部指導員はいい顔をしません。「コンビニは定価販売が基本です」「見切りをすると他のお店に迷惑が掛かります」「このまま見切りを続ければ、契約更新はできません」などと言われています。本来、商品の売値決定はオーナーである私にあるのではないでしょうか。

A.コンビニ加盟店オーナーは、コンビニ本部とは別個の独立した自営業者ですから、商品の販売価格決定はオーナーの専権であり、これを本部が制約することは、独占禁止法に反します。
  公正取引委員会は、平成21年6月22日、コンビニ本部最大手であるセブン-イレブンに対して、独占禁止法19条(不公正な取引第14項4号)の規定に違反しているとして、同法20条1項に基づく排除措置命令を行ないました。概要は、日々加盟店に納品されるデイリー品と呼ばれる弁当類につき、販売期限が迫った商品の見切り販売を妨害し、加盟店オーナーに対して廃棄を余儀なくさせ、加盟店オーナーが自らの合理的経営判断に基づいて廃棄商品の原価負担を軽減させる機会を失わせているというものです。
  セブン-イレブンは平成21年8月5日、公正取引委員会の排除措置命令の受け入れを公表しています(同年8月22日確定した)。見切り販売に様々な条件を設定しようとしたり、仕入原価を下回る見切り販売を「本部に仕入原価の一部を負担させる行為だ」と主張したりといった動きも見られましたが、こうした主張自体が見切り販売を妨害する行為であり、公正取引委員会が受け入れる論理とは考えられません。
 排除措置命令の確定を受けてセブン-イレブン加盟店オーナーが原告となり、独占禁止法25条に基づき提訴した事案の中で最初に出された判決が東京高判平成25年8月30日(判例時報2209号10頁①事件)であり、次のように述べています。
「被告において、本件加盟店契約に基づき、加盟店オーナーに対し、顧客のニーズに合った商品、数量の需要予測を立てて精度の高い発注を実施していき、これを繰り返すことにより廃棄商品を減らしていくことがセブン-イレブンというのれんの価値を高め、加盟店もこれを享受することができるとの考えに基づき、単品管理の徹底を勧める一方で、見切り販売を勧めずに、できる限り推奨価格を維持して販売することを助言・指導するにとどまる場合についてまで、本件排除措置命令が違反行為に含まれるものと認定したとみることはできない。しかしながら、他方、加盟店契約によれば、被告とその加盟店オーナーはそれぞれ独立した事業者であり、加盟店オーナーは、加盟契約上の義務に違反しない限り、自己の経営判断による事業活動をすることができるのであり、被告が推奨価格として開示した価格で販売することを強制されず、商品の販売価格を自らの判断で決定することが保障されている。そうすると、被告が、加盟店オーナーに対し、デイリー商品を推奨価格で販売するように求める助言・指導の域を超えて、見切り販売が加盟店契約に違反する行為であると指摘し、あるいは、見切り販売を行うことより加盟店契約の更新ができなくなるなどの不利益が生ずることを申し向けるなどして、経営上の判断に影響を及ぼす事実上の強制を加え、これにより加盟店オーナーが有する商品の価格決定権の行使が妨げられ、見切り販売の取りやめを余儀なくさせていると評価できる場合には、本件排除措置命令の認定した違反行為に含まれるとみるのが相当である。」「「前判示の各事実に徴すると、被告は、加盟店オーナーに対しては、一貫して、単品管理の徹底を勧める一方で、デイリー商品についても推奨価格を維持して販売することを助言、指導しているのであり、被告のシステムマニュアル、被告のレジ・会計システム、被告による廃棄に関する説明、被告によるブランドイメージの強調等と相まって、原告らとしては、開店当初の時点から、デイリー商品の見切り販売について嫌忌されているという認識が相当程度強固となっていたと推認される。
 したがって、被告が、原告らに対し、上記の販売システムに関する説明、指導の域を超えて、具体的にデイリー商品の値下げはできない又は禁止されているなどと述べた場合には、見切り販売の実施の可否につき、これをしてはならないとの強い心理的な強制を受けるものであり、一旦生じたこのような心理状態は、被告から明示的に訂正されなければ、そのまま継続し、自己の店舗の経営に関する判断としても、見切り販売の実施を見合わさざるを得ないまま期間が経過していくことが通常であると考えられる。本件排除措置命令も、その主文において、加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、もって、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている行為を取りやめなければならないとしており、加盟者自らの合理的な経営判断の機会を与えることも重視しているので、以下、各原告らについて個別に見切り販売の妨害行為の成否について検討する。」とし、原告4名に対する個別の妨害行為を認定し、原告の請求を一部認容する判断となりました。単に助言や指導の範囲に止まるものは違法てはないものの、事実上の強制といえるような言動は違法となるという基準を示しています。損害額は原告や公正取引委員会の考え方を採用せず、民訴法248条に基づいて裁判所が独自に認定していますが、実際の損害額に比べると相当低い金額となっています。
 当職も原告代理人弁護団の一員として訴訟に関与しましたが、判決を受けた5件中認容は3件、オーナー数では10人中7人となっており、証拠や陳述の詳細性・一貫性などの差で結論が分かれています。本件措置置命令も、疑問を持ち、実際に行動したオーナーらの申告に端を発するものです。自店の経営を守るためには、単に本部指導員の指示に従っていれば済むという時代ではなくなってきました。自ら正確な情報を収集し、分析し、理論武装し、自らの智恵と努力で商売を守っていく必要性があることを今回の事件は示しているものと思われます。

Q. 特定商取引法の業務提供誘引販売に該当する場合
  私は、「営業活動(顧客開拓)はフランチャイズ本部が100%代行」「お客様とは年間契約。1回切りでは終わらない毎月安定した収入が確保できます。」「毎月の売上高を保証します」「一人で開業、定年なし」との勧誘文句に惹かれて、ビル清掃のフランチャイズに加盟しました。加盟金を支払い、車両や清掃機器を本部から購入しました。開業しましたが、なかなか仕事の紹介が受けられず、困っています。どうしたらよいでしょうか。

A.フランチャイズであっても、特定商取引法の業務提供誘引販売取引に該当し、同法の適用により、事案を解決できる場合があります。これは、同法の適用を受ける対象者が「消費者」ではなく、「業務を事業所その他類似する施設によらないで行う個人」(同法52条)とされており、店舗や事業所を構えないフランチャイズ契約であれば適用可能性があるためです。
 特定商取引法が定める業務提供誘引販売取引とは、①物品の販売(そのあっせんも含む)又は有償で行う役務の提供(そのあっせんも含む)の事業であって、②その販売の目的物たる商品又はその提供される役務を利用する業務(その商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんを行う者が自ら提供を行い,又はあっせんを行うものに限る。)に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって相手方を誘引し、③その者と特定負担を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんに係る取引をするものをいいます(同法51条1項)。
 本件では、車両や清掃機器を本部から購入し、これを用いて、加盟者はビル清掃事業を行ないます。したがって、①の「物品販売」の事業に該当します。
  ②は業務提供利益を収受し得ることをもって行う相手方の誘引であり、下記の要件に分けられます。
  ア 事業者が提供する物品・役務を利用して相手方が「業務」に従事すること
  イ その「業務」を事業者が提供ないしあっせんすること
  ウ その「業務」に従事することにより相手方が利益(業務提供利益)を得られること
  エ ウの利益を得られることをもって相手方を誘引すること
  まず、アについては加盟者は、本部から購入した車両や清掃機器を利用して(物品の利用)ビルの清掃業務に従事するものですからこれに該当します。
  イについては、加盟者は本部から紹介された仕事を行なうものですから、業務を本部があっせんすることに該当します。
  ウについては、加盟者はあっせんされた取引先のビル清掃業務に従事して、売上高すなわち業務提供利益を得るものであるからこれに該当する。
  エについては、本部が加盟者に代わって取引先を確保し、そこからの売上高を保証することをうたって加盟者を募集しているのであるから、業務提供利益を収受し得ることをもって相手方を誘引することに該当します。
  加盟者は本部に加盟金やロイヤルティ支払の負担を負うものであり、被控訴人に対する特定負担を伴う取引から③の要件にも該当します。
  そして店舗や事業専用の場所を確保せず、自宅を営業所としている場合には「業務を事業所その他類似する施設によらないで行う個人」といえますので、本件契約は特定商取引法の業務提供誘引販売取引にかかる全ての法規制が適用されることになります。
  特定商取引法は、業務提供誘引販売取引について、故意の事実不告知・不実告知の禁止(52条)、誇大広告の禁止(54条)、書面交付義務(55条)、断定的判断の提供禁止指示(56条1項2号)、クーリングオフ(58条)、取消権(58条の2)といった法規制を行っています。
  加盟者が、契約書面を受領した日から初日を算入して20日以内であれば、書面により契約をクーリング・オフ(解除)することができます。なお、法55条2項の記載事項を満たした書面を交付していない場合には、クーリング・オフの起算日が来ていないことになりますので、20日を超えていてもクーリング・オフ可能です。
  クーリング・オフにより、原状回復請求できますので、加盟者は本部に対して、加盟金や車両・清掃機器の購入代金の返還を求めることできます。
  また法が定める事項(法52条)につき、不実告知・事実不告知があった場合には契約を取り消すことができます(法58条の2)。

解決事例

当職が加盟店側代理人として担当したもので、裁判例集に登載された加盟店側を勝訴させた主な事案としては、東京高判平成30年5月23日(サイクルストップ事件。過失相殺なし。判時2384号51頁)、横浜地判平成27年1月13日(パソコン教室の案件、判例時報2267号71頁)、 東京高判平成26年8月30日(コンビニ見切り販売妨害事件、判例時報2209号12頁)、東京高判平成22年8月25日(ファーマーズファクトリー事件。取締役の監視義務違反を認定。判例時報2101号131頁)、最判平成20年7月4日(決済代行報告請求事件。裁判集民 228号443頁、判例時報2028号32頁)等があります。和解により解決した事案としては、コンビニ本部が加盟店契約を一方的に中途解約した事案でオーナーが本部に対して逸失利益の支払いを求めた事案につき600万円の支払いを受ける訴訟上の和解をした事案(2008年1月)、飲食店のフランチャイズにおいて過大な売上予測を示したが赤字のため閉店せざるを得なくなった件につき情報提供義務違反による損害賠償請求をしたところ、東京弁護士会の紛争解決センターで700万円の支払いを受けることより和解が成立した事案(2006年12月)等があります。当職が相談を受けて対応した業種は、コンビニ、ラーメン店、ファーストフード、居酒屋、串焼き、カフェ、パン屋、イタリアン、パソコン教室、塾、個別指導塾、保育園、幼児教育、子ども向け英語教育、デイサービス介護、マッサージ、掃除、ビル清掃、靴修理、鞄修理、美容室、金券ショップ、貴金属買取、接骨院など多種多様です。依頼者に守秘義務が課されているため詳細は報告できませんが、依頼者にとって納得の行く内容の和解となった事例も複数あります。どのような手続により解決すべきかは事案によって異なりますし、訴訟ともなると大変な時間も労力も要しますので慎重な判断が必要となります。拙著「失敗しないフランチャイズ加盟-判例から読み解く契約時のポイント」2011年日本加除出版の一読をお勧めします。

事例研究

1 ファーマーズファクトリー事件(東京地判平成21年12月24日、東京高判平成22年8月25日)

 当職が加盟店側代理人として提訴した事案である。チーズケーキ専門店「ファーマーズファクトリ-」を展開していたフランチャイズ本部は、元々「コロッケ本舗コロまる」というコロッケ販売のフランチャイズを展開していた株式会社エイエスピーという会社である。原告らは「既存店は月150万円の売上げがある。」「月50万円の利益が出る」などと勧誘され、いわゆる脱サラでFC加盟による起業を目指した。原告らが試食したチーズケーキの品質はかなり高く、次々と新商品も出すとの触れ込みであった。契約後、開店時には何と商品が全く別物になっており、味も風味も格段に落ちていた。後から分かったことだが、同社は、他社の商品をOEM契約で導入して当該事業を始めたが、同社にチーズケーキ専門店のノウハウはなく、そのOEM契約も1年間の期間満了で原告の店舗開店前に終了しており、原告らに供給できない状況であった。経営ノウハウも確立できず、直営店も売上げ不振で撤退し、既存加盟店も次々と同様の状況で撤退している状況であったのに、こうした事情を秘して原告らと契約締結させた。会社に対する訴訟中、株式会社エイエスピーは自己破産を申立て、代表者も民事再生を申し立てたため、取締役に対する本件訴訟を提起した。管財人に照会して提出された資料では経営がうまくいった店舗はなく、同社自身も将来性なしと判断しながら撤退しなかった事業であったこと、原告らには「実額」と説明していた内装工事費用に150万円程度の上乗せがなされていること等が判明した。
 原告らの店舗も当然ながら売上が低迷し、1年間も持たずに閉店を余儀なくされ、初期投資費用その他の多額の損失を負った。
 判決は、会社の加盟者に対する情報提供義務違反につき、取締役の監視義務に重大な任務懈怠があったとしてその責任(会社法上の取締役の対第三者責任)を認めた。損害のうち、逸失利益については因果関係を認める主張立証がないとして退けられたが他は概ね認容された。また被告の主張をいれて過失相殺を認定したが、2割5分というフランチャイズ事案としては低めの割合となっている。被告らから控訴がなされたが、被告らの「名目的取締役で監視義務を負わない」等の主張をいずれも退け、過失割合を含めて、一審判決をほぼ踏襲した(確定。判時2101号131頁掲載)。
 本件はある意味極端な例とも言いうるが、こうした会社が適切な法律の規制もなされないまま、フランチャイズ本部を名乗れるのが実情である。

2 まいどおおきに食堂事件(東京高判平成21年12月25日)

 コンビニ・フランチャイズ弁護士連絡会の会員である神田高弁護士が担当した事案であり、特筆すべきその内容から、既に判例雑誌(判例時報2068号41頁)にも掲載済みである(コン弁HPhttp://www.konbenren.net/)。
  「まいどおおきに食堂」というセルフチョイス式食堂のフランチャイズを展開していたフランチャイズ本部であるフジオフードシステム(以下「FF」という。)と、その加盟店募集と経営指導の代行業務を行なっていたベンチャー・リンク(以下「VL」という。)に対し、元加盟店らが損害賠償を求めていた事案である。一審判決は、元加盟店らの請求を棄却し、本部からの競業禁止義務違反等を理由とする反訴請求を認容していたで、元加盟店らの逆転勝訴ということになる。なお、平成24年7月10日、最高裁はFFらの上告を棄却、上告受理申立を不受理とする決定を下し、元加盟店勝訴の高裁判決が確定した。
  VLによる加盟店募集は、一定のエリア内における店舗の優先的出店できるという「権利」を加盟店希望者に購入させるという点に特徴があった。具体的に店舗候補物件を決めないまま先に契約を締結し、加盟店希望者が高額な加盟金を支払うことになるが、契約しても一定期間内に、立地の良い物件を加盟店が見つけて開店できない場合には、加盟店はFFから契約を解除され、しかも加盟金は返還されない内容であった。
  同判決は、エリア内に良質な物件を確保することの困難性と、にもかかわらず、加盟店にはこれが容易であるかのような虚偽を述べて勧誘がなされたことを認定し、開店できない場合に加盟金が没収されるというのは「詐欺に該当する違法行為である」と断じた。単なる説明義務違反というのではなく、その実態に踏み込んで詐欺とまで認定していることの意味は大きい。また、加盟金・加盟保証金の支払義務を定めた条項は著しく不公正な取引で公序良俗に反して無効だとして、加盟店による加盟金等返還請求を認容している。
  さらに、FFが加盟店に対して専門性の乏しい経験と能力の乏しい若手社員しか臨店させないことは、経営指導義務違反に該当し、加盟店が被った損害(利益の減少又は損失の増加)を賠償する義務があると認定した。
  競業避止義務に基づく加盟店に対する営業差止請求や違約金請求については、詐欺的勧誘行為や経営指導義務違反に照らして信義誠実の原則に反し、権利の濫用であって許されない、としている。
  同様に、契約終了後の加盟店の競業避止義務につき公序良俗に反して無効とした近時の裁判例に東京地判平成21年3月9日(判時2037号35頁)があり、本部側に帰責性が大きい事案での加盟店の競業避止義務については一般条項を用いて積極的に制限し、あるいは無効とするという裁判例の方向性を指摘することも可能であろう。

失敗しないフランチャイズ加盟 10講

1 フランチャイズ加盟の基礎知識
(1)フランチャイズとは
   フランチャイズとは、フランチャイズ本部(フランチャイザー)が加盟者(フランチャイジー)に対して、一つのビジネスパッケージとして、商号や商標、ブランドイメージの使用を許諾し、経営指導などを通じて事業のノウハウを提供するのに対して、加盟者が本部に対してその対価としての加盟金やロイヤルティを支払う事業形態を言います。フランチャイズ本部と加盟者は別個の事業体であり、本店と支店の関係ではありません。加盟者は、フランチャイズ本部の名声や確立されたノウハウを利用することで自ら事業を起業する場合に比べて開業リスクを低減できること、フランチャイズ本部は他社の資本や労働力を利用して事業を拡大できることから、双方にメリットがあると言われています。
   フランチャイズという外来語を日本でもそのままカタカナで使用することが多いのですが、日本語にあえて翻訳するのであれば「加盟事業」とでも表現することになろうかと思います。
(2)日本におけるフランチャイズ
   フランチャイズ本部の団体である一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の2013年度「JFAフランチャイズチェーン統計調査」によれば2013年度のフランチャイズチェーン数は1304を数え、直営店及び加盟店を合わせた総店舗数は25万2514店舗、売上高は23兆4773億円であり、いずれも増加傾向にあるとされています。
(http://www.jfa-fc.or.jp/folder/1/img/20141028102114.pdf)。
   業態としても、コンビニエンスストアを典型とする小売業や外食業の他、清掃や学習塾といったサービス業など広範な業種に及んでいます。店舗数5万店を超えるコンビニエンスストアは、一種の社会インフラと認識されており、我が国におけるフランチャイズ業界全体としての隆盛は疑うべくもありません。
(3)理想としてのフランチャイズ像
   フランチャイズ本部は、フランチャイズ展開することによって、個々の店舗の経営リスクを直接負担することなく、また、加盟者自身の資本・人材・労働力を活用することによって規模の利益を享受できます。他方、加盟者は、金銭的対価をフランチャイズ本部に支払うものの、フランチャイズ本部が既に確立したノウハウや知名度を利用して、経営リスクを減らし、安定した開業・店舗経営を行なうことができます。この理想像としてのフランチャイズは、共存共栄あるいはウイン-ウインなどと表現されています。
   フランチャイズ加盟を検討している起業者にとっては、フランチャイズへの加盟は「ローリスク・ミドルリターン」の投資と理解されており、これこそがフランチャイズ加盟者にとっての一番のメリットであるといえます。
(4)フランチャイズ加盟のリスク
   上記述べた、理想としてのフランチャイズ像はあくまで「理想」に過ぎず、現実は異なります。フランチャイズ加盟前に知っておくべき情報は多数あり、筆者はそのいくつかについてこのメールマガジンで言及したいと思っています。
   まず、最初に指摘したいのは、フランチャイズ契約書の「怖さ」です。コンビニフランチャイズの契約書において典型的ですが、法律を知っている者が読むと背筋が凍る思いをする内容です。加盟者の義務は事細かに決められ、その違反は、高額な違約金や保証人への請求が予定されています。加盟者の商圏の保証はない一方で契約終了後の競業禁止が定められています。他方、フランチャイズ本部の義務である経営指導の内容は抽象的かつ不明確です。
   契約書の内容を良く読まずにフランチャイズ本部のリクルート担当者のセールストークのみを信用して押印するのでは、フランチャイズ加盟での成功などまずあり得ないのではないでしょうか。起業者としての成功を夢を見るのであれば、「当該フランチャイズ加盟することによる最大限のリスクは何か」についても十分に検討しておくべきでしょう。


2 フランチャイズ業界の現状
(1)公正取引委員会による実態調査
   フランチャイズ業界の現状について知るには、平成23年7月7日に公正取引委員会が発表した「フランチャイズ・チェーン本部との取引に関する調査報告書」を参照するのが便宜です。
   http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h23/jul/110707gaiyo.html
   公正取引委員会は、平成13年にコンビニエンスストアを対象に行った実態調査を行い、これに基づき平成14年にフランチャイズ・ガイドラインを改訂しています。上記の調査は10年ぶりに公正取引委員会がフランチャイズ業界の実態調査を行なったものです。これは書面によるアンケート調査であり、調査した内容は独占禁止法に関連する事項のみで調査には限界があるものの、公的機関が行なったものであり、フランチャイズ加盟を検討されている方においては必読の報告書といえます。

   公正取引委員会自身が報告書を要約しているところを引用すると下記の通りです。
 (1)本部の加盟店募集(本文11~18ページ)
  ア 本部が加盟希望者に対して開示した情報のうち,「予想売上げや収支モデルの額」について,本部が提示した額よりも実際の額の方が低かったと回答した加盟店の割合が5割程度と最も高かった。
   また,「経営指導の内容」,「再契約(契約更新)の条件」,「経営支援の内容」,「ロイヤルティ」等についても,本部が開示した内容と実際の内容が異なっていたと回答した加盟店の割合が高かった。
  イ 本部が加盟希望者に対して開示した情報の内容や説明が正確性を欠いている又は十分でないことにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある〔ぎまん的顧客誘引〕。
 (2)契約締結後の本部と加盟店との取引(本文19~37ページ)
  ア 本部が加盟店に対して,商品の仕入数量,商品の廃棄,商品の販売価格等に関し各種の制限を課す又は新規事業を導入することが多く見受けられる。
    なお,次のとおり,各種の制限を課す又は新規事業を導入する際に,本部が加盟店に対して行う行為が,独占禁止法上問題となるおそれがある又は取引適正化の観点から留意すべきと考えられる加盟店の回答事例があった。
    本部が設定した目標数量を達成するため,経営指導員から商品の仕入数量が強制されたり,加盟店のオーナー不在時に勝手に経営指導員に商品を発注され仕入れさせられたこともある。
    本部が設定した販売期限を過ぎた商品を販売した実績があると,再契約(契約更新)の際の要素とされる加盟店評価において不利な評価をされるため,本部の設定する販売期限に合理性を感じないが,商品を廃棄せざるを得ない。
    特定の商品について,本部の指定する価格で販売することを契約書において義務付けられている。
    加盟店が得られる手数料収入では採算に合わないが,本部から一方的に新規事業を導入させられる。
  イ 取引上優越した地位にある本部が加盟店に対して,商品の仕入数量,商品の廃棄,商品の販売価格等に関し各種の制限を課す又は新規事業を導入する際に,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合,加盟店の販売価格(再販売価格)を拘束する場合又は加盟店が供給する商品(役務)の価格を不当に拘束する場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある〔優越的地位の濫用,再販売価格の拘束,拘束条件付取引〕。

この報告書を読むと、本部と加盟者の関係が実際にどうなっているのかが見えてきます。少なくとも、理想状態としての共存共栄あるいはウイン-ウインにはほど遠い感じを受けます。
    また報告書は数字を取りまとめたグラフだけでなく、加盟店の回答の具体例について記載しています。一々の引用は避けますが、加盟店オーナーの「生の声」を窺い知ることができます。
フランチャイズ加盟を決定する前に周到な準備が必要であることをこの報告書から是非くみ取って頂きたいです。
 (2)フランチャイズ加盟は開業リスクを低減するか
    さて、フランチャイズ加盟による起業予定者にとって、加盟は加盟金やロイヤルティという対価を支払う(=よけいな経費がかかる)けれども、本部の知名度やノウハウを利用することによって開業リスクを低減する、すなわち「ローリスク・ミドルリターン」を目指すのが目的であったはずです。
    ここで参照しておく必要がある一つの数字があります。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)総合研究所が発表した「新規開業企業を対象とするパネル調査結果(2004)」によると、2001年に開業した企業が2003年までに廃業した割合は、フランチャイズ非加盟企業は7.8%なのに対し、フランチャイズ加盟企業は14.4%という数字になっています。
   (注 上記の調査結果そのものを現時点ではウェブ上で確認できませんが、これを引用する論文としてhttp://www.nli-research.co.jp/report/report/2004/03/eco0503a.pdf)
廃業率は成功率の裏返しの指標と言って良いと思いますが、フランチャイズに加盟した方がそうでない場合に比べて廃業率が高いのであれば、一体何のために加盟金やロイヤルティを支払って加盟するのか、という話になります。
少なくとも、起業予定者からすると、しっかりと準備を行い、まともなフランチャイズ本部を選択しないと意図した起業などできない、ということはいえるでしょう。


3 フランチャイズ契約に関する事前開示に関する規制と実情
 (1)中小小売商業振興法
    現在の日本においては、フランチャイズを包括的・実効的に規制する法律はありません。しかしながら、規制する法律が全くない訳でもありません。
    中小小売商業振興法という法律があります。
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S48/S48HO101.html
    「この法律は、商店街の整備、店舗の集団化、共同店舗等の整備等の事業の実施を円滑にし、中小小売商業者の経営の近代化を促進すること等により、中小小売商業の振興を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」(1条)法律ですが、 小売業のフランチャイズは「連鎖化事業(主として中小小売商業者に対し、定型的な約款による契約に基づき継続的に、商品を販売し、又は販売をあつせんし、かつ、経営に関する指導を行う事業をいう。以下同じ。)を行う者」(4条5号)に該当し、(特定連鎖化事業の運営の適正化)、かつ「連鎖化事業であつて、当該連鎖化事業に係る約款に、加盟者に特定の商標、商号その他の表示を使用させる旨及び加盟者から加盟に際し加盟金、保証金その他の金銭を徴収する旨の定めがあるもの(以下「特定連鎖化事業」という。)を行う者は、当該特定連鎖化事業に加盟しようとする者と契約を締結しようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、あらかじめ、その者に対し、次の事項を記載した書面を交付し、その記載事項について説明をしなければならない。」(11条)と規定されている「特定連鎖化事業」にあたるため、法定された書面をフランチャイズ加盟希望者に事前に交付し、説明しなければならないとされています。平成14年3月に大きな法改正があり、当時増加しつつあったフランチャイズに関する紛争に対応しようとしたものですが、あまり実効的な規制とはいえません。
http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hourei/14fy/0203029kourisinnkou.htm
    「小売」以外の(例えばサービス業などの)フランチャイズには適用すらありません。
    事前開示が要求される事項も不十分ではありますが、省令で定めている「本部事業者の直近の三事業年度における貸借対照表及び損益計算書」「直近の三事業年度における加盟店の数の推移」「本部事業者が加盟者又は元加盟者に提起し、又は、提起された直近の五事業年度の訴訟数」などは、当該フランチャイズ本部が信用に足るものかどうかを判断する手がかりとはなります。フランチャイズ本部の財務状況を知っておくことは大切です。加盟店数の推移もチェーン全体としての動向を見る指標になるでしょう。訴訟数についても本部と加盟者とのトラブルについて知る手がかりとなります。
    加盟前にこうした法定書面を提示された場合には、その内容を熟読吟味する必要があるでしょう。
 (2)独占禁止法-公正取引委員会のフランチャイズガイドライン
    フランチャイズ本部は加盟者に対して経済的にも情報・人材の面でも優越的地位にあり、また経営指導を加盟者に対して行なうことから、「上下関係」にも似た力関係となり、独占禁止法違反の問題が生じやすいといえます。公正取引委員会は、こうしたことを踏まえ、平成14年4月24日に「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(フランチャイズガイドライン)を公表しました(その後いくつかの改訂を経ています)。
    http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/franchise.html
    個別の案件で公正取引委員会が調査に動くことはなかなか無いとは思いますが、こうしたガイドラインがあって独占禁止法上問題となりうる可能性があることは知識として知っておくべきでしょう。
    「フランチャイズ契約の下で、加盟者が本部の確立した営業方針・体制の下で統一的な活動をすることは、一般的に企業規模の小さな加盟者の事業能力を強化、向上させ、ひいては市場における競争を活発にする効果があると考えられる。しかしながら、フランチャイズ・システムにおいては、加盟者は、本部の包括的な指導等を内容とするシステムに組み込まれるものであることから、加盟希望者の加盟に当たっての判断が適正に行われることがとりわけ重要であり、加盟者募集に際しては、本部は加盟希望者に対して、十分な情報を開示することが望ましく、また、フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者との取引においては、加盟者に一方的に不利益を与えたり、加盟者のみを不当に拘束するものであってはならない。」「業界において、フランチャイズ契約に関する情報の登録・開示が推進されているが、独占禁止法違反行為の未然防止の観点からも、加盟希望者の適正な判断に資するよう本部の加盟者の募集に当たり、次のような事項について開示が的確に実施されることが望ましい」「加盟者募集に際して、予想売上げ又は予想収益を提示する本部もあるが、これらの額を提示する場合には、類似した環境にある既存店舗の実績等根拠ある事実、合理的な算定方法等に基づくことが必要であり、また、本部は、加盟希望者に、これらの根拠となる事実、算定方法等を示す必要がある。」といった具体的言及もあります。フランチャイズ加盟希望者としてもこうした情報に関心を持つべきところであることから、フランチャイズガイドラインには目を通し、契約締結前の情報収集の参考とすべきと思われます。
 (3)一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の自主開示基準
    フランチャイズ本部の任意団体として一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会という組織があります。http://www.jfa-fc.or.jp/ 
この協会は、「JFA倫理綱領」及び「JFA開示自主基準」を定めており、会員であるフランチャイズ本部に情報開示を要請しています。
「フランチャイザーが、フランチャイジーに対価を得て提供する商品・役務、経営のノウハウは、すべて、過去の経験及び実績によって裏付けられたものとする。」「フランチャイザーは、フランチャイジーの募集にあたって、正確な情報の提供を行うものとし、誇大な広告や不当な表示をしない。」「フランチャイザーがフランチャイジーとなることを希望するものに提供する情報は、契約の内容、モデル店の過去の営業実績、フランチャイジーが必要とする投資額、フランチャイジーの収益予想など、フランチャイズをうけるか否かを判断するのに十分な内容を備えたものとする。」といった、フランチャイズ加盟希望者からみても「至極当然」というべき内容になっていますので是非参照してください。
    しかし、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の2013年度「JFAフランチャイズチェーン統計調査」によると、2013年度のフランチャイズチェーン数は1304に及ぶのに対して、加盟しているのは301であり、その組織率はわずか23%に過ぎません。また、同協会が運営する「ザ・フランチャイズ」というサイト上で事前開示書面を一般公開しているのはせいぜい100程度に止まり、1割にも達していないので、我が国の大多数のフランチャイズ本部は情報開示に極めて消極的であることが分かります。http://frn.jfa-fc.or.jp/
これが日本のフランチャイズ業界の実情であることをまずは認識してください。
 (4) まとめ
    不十分な情報な、正確でない情報のみに基づいて、フランチャイズ加盟するかどうかを意思決定するのでは、起業者として適切な経営判断をしているとは言い難いです。JFA開示自主基準で示されている程度の情報は、協会に属していないフランチャイズ本部に対しても開示を求めて何の問題もないはずです。情報の開示を求めたのに、それに本部が応じない場合には、当該本部を信用するかしないかという点において、そうした「情報公開に後ろ向きな態度」も考慮に入れる必要があると思われます。


4 「契約前の説明と全く違うじゃないか」と気づいた時
(1)「本部にノウハウがない」
    フランチャイズ本部と加盟契約を締結するに至るというのは、加盟者がフランチャイズ本部の説明を聞き、これを信用して加盟することを決意したはずです。しかし、実際に開業してみると、事前に提示されていた売上高に全く及ばず利益が出ない、フランチャイズ本部に経営指導を求めても「チラシを撒いたらどうか」という程度の助言しかなく、来店しての指導すらない、どうも本部にそもそもノウハウがないのではないかと疑わざるを得ない事案があります。著者がフランチャイズ加盟店の相談に乗るようになってから繰り返し聞く、「よくある相談事例」です。
    前に述べたように、我が国にはフランチャイズ事業を実効的に規制している法律がありません。加盟者募集のためにいかにもノウハウを有しているかのような資料を作り、加盟させたら後は何もせずに放置するという詐欺まがいの会社でもフランチャイズ本部を名乗ることができるのです。
 (2)前進か、それとも撤退か
    さて、加盟者としては、前職を辞める決断を、少なくない資金を投下し(場合によっては相当額の借り入れを起こし)、自身も相当程度の労働をする覚悟でフランチャイズ加盟したはずです。事前の説明と実際とが全く違っていたら、人生設計も狂い、大変な事態となって頭を抱えることになりかねません。
    数ヶ月、営業に邁進しても、損益が好転せず、赤字続きのため、1日も早くお店を閉めた方がまし、という場合もあるでしょう。しかし、そうした本部に限って、契約書を読み直してみると、中途解約に多額の違約金を支払う規定があり、保証人にも請求する、などと記載されていることがあります。投下した資本の回収にも目処がつかず、一体、前に進むべきか、早期に撤退を考えるべきかについて迷うことがあります。
 (3)問題点の整理としかるべき人への相談
    赤字続きともなれば人件費削減のため、加盟者自身が長時間労働しているということも多いでしょう。しかし、経営者として、一度事実経過を整理し、一体何が問題なのかについて考える必要があります。フランチャイズ本部は大したノウハウがないことを棚に上げて「売上が上がらないのは経営者としての努力が足りない」と加盟者に責任を転嫁します。そして、本部のいうとおり営業努力を続けてもやはり売上高が上がらないのは、どうも経営努力の問題ではなさそうだ、ということが半年後とか1年後にようやく分かるということもあります。
    本部の経営指導担当者に助言をもらっても、何の役にも立たないことがよくあります。他の加盟店と情報交換を行い、また本部とは関係のない専門家に助言を求めるなどして、解決の方向性を探る必要があります。
 (4)判例ワンポイント解説 教導塾事件(水戸地判平成7年2月21日)
    学習塾のフランチャイズで、「講師は本部が研修をした上で派遣する」「場所を提供して開設資金を支払えば、あとは月謝の徴収程度の簡単な事務」「塾の運営は本部に任せてほしい」「生徒募集は本部で責任をもって行なう」「最低でも月10万円の収益があがる」などと勧誘したのですが、実際には、講師はアルバイトで研修もない、生徒募集も折り込み広告程度という、かなり虚偽性の高い勧誘を行なった事案です。
    裁判所は「担当者は、その説明内容が虚偽であることを知りつつも、書く原告に加盟契約を締結させて各原告から開設資金名下に金員を得ることを目的として右違法行為をした」ので「各原告に対する詐欺行為として不法行為に該当する」と判示し、加盟者に対する損害賠償を命じています。
    フランチャイズ紛争で「詐欺」とまで認定されるのは相当酷い事案であったといえます。フランチャイズ加盟を考える起業者としては、このような本部は絶対に避けなければならず、どうしたら避けられるのかを考えておく必要があります。


5 本部から事前に示された売上高に全く届かなかった場合
(1)売上高が予測の6割にも達しない
    ある程度の実績があり、評判も悪くない本部に加盟することになった場合でも、店舗を開業してみると、売上高が事前に提示された金額に達せず(たとえば事前予測の6割等)、赤字で経営困難という事例があります。その理由は後から分析するといくつかありますが、一つの類型としては、本部が都合の悪い情報を隠蔽している場合があります。成功している繁盛店の数値を持ってきて、とても同じ条件の立地とは思えない場所に新店を出す場合にも、既存店の実績値と称してそれを示すとか、事前調査で売上高が著しく低いことが判明したのに、既存店の平均値を提示する等本部が「知ってて隠した」ような場合です。他の類型としては、フランチャイズ本部自身も新規店舗の立地条件等を読み誤った場合があります。例えば、フランチャイズ本部の経験値が低く、店舗数がまだ少なすぎて、どのような条件の立地に出せばどの程度の売上高が見込めるのかについての予測の精度が低いような場合とか、新店開発ノルマに追われる開発担当者が店舗開発を急ぐ余りに数値を適当に操作してしまったような場合があります。筆者の最近の経験でも、上位のコンビニチェーンなのに、東京都内で日販20万円台の店舗を出してしまっている例がありました。
    フランチャイズ加盟者は、当該フランチャイズ本部を信用して、提示された損益予測を信用して契約締結に至ったはずですが、「こんなはずではなかった」という後悔する例は後を絶ちません。
(2)「立地条件の悪さ」という越えがたい壁
    上記のような問題が発生した場合、本部としてあるいは開発担当者としての責任逃れのために、「オーナーの店舗オペレーションが悪い」とか「本部の指導通りにしていない」から売上高が上がらないのだというフランチャイズ本部の反論をやはり良く耳にします。店舗運営の改善で何とかなればそれに越したことはありません。しかしながら、先程、具体例として挙げた日販20万円台のコンビニでは、店舗運営の改善で何とかなる領域を遥かに超越しています。どうしようもない条件の悪い立地(例えば競合店多数など)に出店してしまったので、本部としても手の打ちようがないのです。
    これが唯一無二のここでしか食べられない究極のラーメンを出すお店であれば条件の悪い場所でもお客さんが来てくれるかもしれません。しかし、フランチャイズ展開している事業は唯一無二のものではないはずです。またフランチャイズ加盟による起業を希望している方にとっても、既に成功している事業だからこそ安心して加盟しようとするはずです。フランチャイズ加盟による起業においては店舗の立地はより一層のこと重要であるはずです。
(3)どこに店舗を出すかは極めて重要
    確実な成功を願う起業者に対して、新規に出店する店舗の立地条件の確認や把握の重要性はどんなに強調しても強調しすぎることがない問題です。一般的に言って、当該フランチャズ事業はその本部しか展開していないのですから、どのような立地条件の場所に出店すれば成功するかは当該本部が一番良く分かっており、本部から情報を得るしかありません。しかし、それと本部の説明を盲信することとは問題が異なります。業種によっては同業他チェーンがあったり、類似の業態があったりするでしょう。まずは、しっかりと情報収集を行い、ご自身としても立地の良し悪しが分かるようになってから起業しても遅くはありません。
    あるいは、立地調査のプロの意見を聞くという手もあります。元日本マクドナルドの出店調査部チーフとして腕を磨き、その後独自の立地予測理論を確立して立地分析等を専門的に行なっている林原安徳さんという方がいらっしゃいます。林原さんはご自身の理論の一端を「これが『繁盛立地』だ!」(同文舘出版)等の著書で開示されており、起業を検討している方に大変参考になると思われます。
(5)判例ワンポイント解説 ポプラ事件(福岡高判平成18年1月31日)
    コンビニの新規出店の事案ですが、当該店舗の損益分析点が日販46.7万円と想定されるところ、予測売上高は日販34万円という数値を得ていたものの、かかる数値を加盟店オーナーに事前開示することなく契約を締結させたという事案です。開業後の売上高は約26万円という厳しいもので、当然ながら赤字となりました。
    本部は訴訟で、売上予測を確実にすることは困難で、実際の結果とは2割程度の誤差が出るから開示するとかえって加盟希望者の誤解を招くから開示する義務はない等と争いましたが、裁判所はこうした厳しい数値を開示してこそ、真にあるべき情報提供義務がなされたものと評価することができるとして、本部の加盟者に対する情報提供義務違反を認定しています。
   

6 本部が経営指導してくれない
(1)どこまでが本部の義務なのか
   契約締結前は手厚いバックアップや定期的な訪店指導を約束していたはずなのに、開業後は「経営指導担当者が全く訪店してくれない」「本部のバックアップを期待していたのに、全く何もしてくれない」というのもよく耳にする相談です。当該業態には全く素人だからこそ、本部のバックアップがあるということが、加盟を決意する重要な要素だったのに、実際にはそうでなかったとすると、加盟者からすれば梯子を外されたという思いになるのは無理もありません。
   既に開業して経営中の方はまずは契約書を良く読み直してみてください。本部の加盟店に対する経営指導義務という項目はありますか。また、そこには本部の経営指導義務の内容が具体的に記載されていますか。
   数多くのフランチャイズチェーンの契約書を検討してきた筆者の経験によれば、加盟者の本部に対する義務は事細かにこれでもかという位に具体的に記載されているのに対して、本部の加盟者に対する義務は極めて抽象的にしか書かれていない例が極めて多いといえます。
   そもそも、経営指導義務という条項がない場合には、本部の加盟者に対する経営指導は、契約上の義務といえるのか、という問題まで出てきます。
(2)経営指導なのか、単なる監視なのか分からない場合も
   経営指導が全くない、経営指導のために社員も来ないという場合には、比較的、本部の経営指導義務違反は主張しやすいとはいえます。契約条項に基づいて、しかるべき経営指導をなすよう申し入れていくべきでしょう。
   他方、「定期的では無いにせよ、ごくたまに訪店はあるが、有益な指導は全くない」「定期的に訪店はするものの、しているのはチェック項目に基づく点数付けや、新商品の売り込みだけ」のような事例もあります。こうした場合には、本部は形式的にレポートを作成していたりするので、何をもって経営指導義務違反といえるのか、その判断基準は何かという難しい問題があります。
   本来的には、経営指導等の対価としてロイヤルティを支払っているのですから、本部が加盟者に対してなすべき経営指導は対価として見合っているものでなければなりません。すなわち、形式的に何回訪店したかということよりも経営指導の内実が問われるべきですが、その場合「有意義な指導なのかどうか」の立証は極めて難しいものがあります。
(3)判例ワンポイント解説
   まいどおおきに食堂事件(東京高判平成21年12月25日)
   店舗指導員が、数ヶ月に1回しか臨店せず、臨店日時も分からないため継続的な指導ができない、メニューの改善な原価を下げるための調理指導ができない、思いつきを言うだけで、具体的な改善策の指導がない、他店の成功例を話すが、当該店舗の実情に即した具体的指導がないなどの指摘が加盟店からなされた事案です。
   判決は、専門性のある店舗指導員の即戦力採用や社内育成を十分に行なわず、加盟店の多くが専門性の乏しい若手社員の臨店指導しか受けられなったことが、経営指導義務違反の債務不履行に該当すると判断しています。


7 契約を解約して店舗を閉めたいのに解約できない
(1)違約金規定や保証人
   フランチャイズ契約を締結して、店舗をオープンさせたけれども、売上高が上がらず、営業赤字が嵩むばかりなので、早めに撤退したいという場面があります。経営者としては「不採算事業の撤退」ということも重要な経営判断になることもあります。
   しかし、フランチャイズ契約をよく読み直してみると、加盟店の都合による中途解約の場合に500万円とか1000万円とかいった高額な違約金を支払わなくてはならないという違約金条項が規定されていることがあります。営業不振のため泣く泣く撤退するというのに、高額な違約金を支払わなくては止めることすらできない、というのは極めて不条理です。
   また、本部から、連帯保証人を徴求され、家族や友人に連帯保証人となることをお願いしてしまっている場合もあるでしょう。保証人に迷惑を掛けられないということになると、不採算事業なのに、止めるに止められないという事態が発生します。
   本部と営業不振の原因とその対応が困難であることについてよく協議し、違約金なしで中途解約できるよう交渉するほかはないと思われます。
(2)更新拒絶
   上記とは逆の問題で、店舗の経営がうまく行っているのに、5年間とか10年間とかの契約期間の満了時に、本部から契約更新を認めてもらえないという場合があります。
   起業した以上、20年間とかあるいは体力が続く限り長くやりたい、うまくいけば後継者に後を任せたいと考えるのが普通でしょうし、それを見越して加盟金や建設資金等の初期投資をする訳で、投下資本を回収した上でさらに利益を出すのでなければ何のために加盟したのかという話になります。
   しかし、フランチャイズ契約書には、加盟者の「更新権」が明示されておらず、フランチャイズ本部との合意により更新可能という曖昧な規定が置かれていることがよくあります。
   後述するほっかほっか亭対プレナス事件のように、更新拒絶するためには信義則上、正当な事由が必要といった限定解釈により加盟者の更新権を確保していくことが必要となります。実務的には、店舗の運営や本部との関係に特段の問題はなく、他の加盟者は皆、契約更新されているといった事情を交渉で指摘し、訴えていく必要があります。
(3)競業禁止
   フランチャイズ契約書に、理由のいかんを問わず、契約関係が終了した場合に、加盟者に一定期間の競業を禁止し、またこれに違反した場合の違約金を定めている例が多く見られます。
   フランチャイズ本部の経営指導が十分でないような場合に加盟者は本部との契約解消を望みつつ、他方で既に多額を投じた初期投資を回収しなければならないことから、同種のあるいは類似の事業を独自に行ないたいという場合があります。
   この問題も形式的には加盟者の契約違反行為に該当することから、その取扱いや対応が難しいところがあります。経営主体の相違とか業種の相違など、形式的にも当該条項に該当しないような営業を検討するのが無難な対応であるとはいえます。
(4)判例ワンポイント解説
   ほっかほっか亭対プレナス事件(東京高判平成24年10月17日)
   持ち帰り弁当フランチャイズのマスターフランチャイザーとサブフランチャイザーとの間が互いに更新拒絶を争った事案です。
   自動更新における更新拒絶事由を制限する規定がない場合であっても、フランチャイズ契約が長期間にわたる取引関係の継続が予定され、人的物的に多大の投資を重ねるのであるから継続的な事業展開についての期待も一定の法的保護が必要であるとし、更新拒絶の意思表示は信義誠実の原則による一定の制限があり、更新を拒絶することについて正当な事由がある場合に限り契約が終了するとした上で、当該事案では当事者間の信頼関係が破壊されており、マスターフランチャイザーによる更新拒絶は信義則上正当な事由があったとしました。本件のサブフランチャイザーが東証一部上場会社であることも正当事由の一事情として言及されており、通常のフランチャイザーとフランチャイジーとの紛争にそのまま妥当するかどうかは検討を要します。
 

8 米国、韓国のフランチャイズ規制と日本における法規制の必要性
(1)米国の法規制
   日本弁護士連合会は、消費者問題対策委員会独禁法部会委員を中心として2012年、フランチャイズ法の実情について訪米調査しましたが、筆者も委員としてそれに参加しました。
   米国は、州(一つの「国」と理解すべきでしょう)ごとの規制の他、連邦レベルの規制があります。
   まず連邦政府としては、連邦取引委員会(FTC)がフランチャイズ詐欺の防止及び加盟希望者に事前に十分な情報を提供することを目的として、詳細な情報開示書類の提供を本部に義務づけています。開示すべき項目は、極めて詳細に及んでいる他、店舗の売上・収益予測の開示は義務ではないものの、開示する場合には合理的根拠を示す必要があるとされています。
   これは、米国全体での最低基準規制なので、州ごとに独自の規制を課すことに問題はありません。州独自でフランチャイズに独自の規制をしている州は17に及んでいます。フランチャイズ契約の不当な契約の是正や優越的地位の濫用の防止などを規制する規定を置いている州もあり、解約や更新拒絶に正当な事由であること、その補償を必要とする場合があることなどが定められています。最も厳しい規制をしているのは、近隣出店の調整手続き、売上減少に対する補償規定を有しているアイオワ州だとされています。
(2)韓国の法規制
   韓国は、独占規制及び公正取引に関する法律という一般法があり、その特別法として加盟事業取引の公正化に関する法律を2002年に制定しました。前述した日本弁護士連合会は訪米調査の翌年、韓国の訪問調査を行い、筆者も参加しました。日本の小売商業振興法や米国のFTC開示規則を参考に立法したとのことですが、その内容はかなり踏み込んだ内容であり、現状では、日本の法規制は韓国に相当の遅れをとっています。
   いくつかの重要な規制を挙げると、①情報公開書登録開示義務、②加盟金預託制度、③過重な違約金の禁止、④不当な営業時間拘束の禁止、⑤不当な販売地域の侵害の禁止、⑥最長10年までの本部の更新拒絶の禁止、⑦解除の制限(2か月以上の猶予期間をおいての催告を2回要する)、⑨加盟者団体との交渉応諾義務などです。また、公正取引調整院という組織が本部と加盟者との紛争の調停に当たっているということでした。
   かかる法規制はフランチャイズ市場の公正化・透明化に役立っていると評価されています。
(3)日本における規制の必要性
   日本でも米国や韓国における法規制と同様の法規制が必要だと思われます。特に、韓国に大きく先を越されたものの、その内容は我が国で導入すべき同様の規制として大いに参考になるものです。日本での法規制の立法提案として、北野弘久「『フランチャイズ規制法要綱』の発表」(法律時報82巻3号80頁。筆者も北野委員会に委員として参加)等があります。


 9 契約締結の前に考えるべきこと
(1)事前の準備の必要性
   既にこの論考でも何度か言及してきましたが、フランチャイズ加盟による起業を決断する前、フランチャイズ契約締結前の準備の必要性・重要性は強調して強調しすぎることがありません。
   これから起業しようとする業種・業態にかかる業界研究は当然必要となるでしょう。その市場は成長分野なのか停滞分野なのか、衰退分野なのか。子どもの人口が少なくなる高齢化社会となりつつ日本で、大手予備校も「個別指導」塾にも手を出したりとかなり厳しい時代になっていることを感じます。他方、高齢化対策として「介護」はどうかといえば既に多くの業者が参入済みで競争が激化しているようにも見えます。「高齢化」「エコ」といった耳になじみやすいキーワードに捕われ過ぎず、多角的に検討する必要があるでしょう。
   また、フランチャイズ本部から提供された資料を読み込むのは当然として、その資料がけでは分からないこともいくつもあるでしょう。目だけではなく、足も使い、専門家に会いに行ったり、先に加盟して起業済みのオーナーにインタビューしたり、判断材料を広く集めることを厭うべきではありません。
(2)メリット、デメリットの検討
   フランチャイズ本部担当者から話を聞き、また様々な資料を集めた上で、当該フランチャイズへの加盟が自分にとって正しい決断なのか十分に吟味し、検討することになります。売上高が高いとか利益率が高いとか何かしら引きつけられるものがあるので当該フランチャイズへの加盟を具体的に検討されているのでしょう。しかしながら、メリットの検討だけでなく、加盟した場合に生ずる不都合、すなわちデメリットの検討も必要となります。情報収集に際しては良い情報を集めるのは当然として、悪い情報も積極的に調査するべきでしょう。
(3)準備・交渉過程の記録と保存を
   こうした情報収集、すなわちフランチャイズ本部担当者から話を聞くとか、オーナーにインタビューするとかそうした情報は全て記録に残すというのが鉄則です。今や、安価で性能の良い小さなICレコーダーは簡単に手に入るのですから、備忘録替わりに本部社員から話を聞く時は「必ず」ポケットに入れておく位の用心深さがあっても良いと思います。特に問題なく起業できたのであれば、後で消すだけのことです。
   しかし、記録が全くないと、担当者から「こういう話を聞かされ」て、かつその話が加盟するかどうかに決定的であった、としても紛争になって相手から否認されれば立証は大変困難になります。こうした会話の記録があるのとは無いのとでは紛争解決に際して決定的な相違になる可能性もあります。こうした「保険」を掛けておくのも経営者として必要なことだと思います。そして、結果的に「保険」を使わずに済んだのだとしたら、フランチャイズ加盟による起業がうまくいったということなのでしょう。


10 契約後の本部との交渉について
(1)原因を分析する
   フランチャイズ加盟して、お店を開店し、実際に営業を開始してもどうも想定していた売上高に達しない、本部に対応をお願いしても有効な対策が立てられないということがあります。
   本部の指導通りやって売上高や利益が改善するのであれば、その通りやり続ければ良いということです。本部との対立関係や緊張関係もなく、共存共栄を実践していくことができます。
   しかし、本部の指導通りにやっても売上高や利益が改善しないとなると、本部に対する不信感も出てきますし、対立関係や緊張関係も生じます。一体、売上不振や利益不振がどこからくるのかという原因を探らなければならないのですが、本部を信用しきれないとなると、経営者として自分自身で分析しなければなりません。フランチャイズ加盟したのは、本部のノウハウを信頼したからであるはずなのに、その本部を当てにできないとなると、なかなか大変で辛いことになりますが、仕方がありません。
   加盟時に受けた説明や資料、契約書を読み直し、経営不振の原因を探っていかなければなりません。店舗の立地条件が悪かったのか、そもそも本部が事前に説明していた内容に疑問があるというのか、本部は実は大したノウハウがなかったのではないか等。これに結論を出すには経営数値の読める経営者でなければなりません。今まで読めなかったとしてもここは自分で勉強し、理論武装する必要があります。
   専門家への相談も必要で有益なことではありますが、ご自身のお店の問題であり、まずは自分で結論を出す必要があるといえるでしょう。
(2)対応策を考える
   経営者としては経営不振、とりわけ営業損失(赤字)を放置する訳にはいきません。何らかの手立てを取る必要がある場合に、フランチャイズ本部の経営指導が有益であれば余り深刻ではありませんが、そうでないとすると自分で判断し、決断するしかないことになります。コンビニエンスストアで売上高不振だと、削れる経費は人件費しかないということで、オーナーとその家族が長時間シフトに入り、深夜も一人でこなしているという相談事例には筆者がたくさん接してきました。時給で計算したらオーナーの報酬単価はアルバイトの時給以下という笑えない事例もあり、これでは一体何のために起業したのか、ということになります。
   経営不振の原因を自分なりに分析し、その上で、この事業を継続するのか、撤退するのかという厳しくて辛い意思決定をしなければならない場合もあります。筆者の経験ではなるべく早い段階で専門家に相談をされた方が取り得るオプションが多いという感想です。
(3)「損切り」という選択肢
   会社で社員として働いている分には余程のことがない限り、会社を辞めて損失を被る(給与の返還をしなければならない)ということはないはずです。次の勤務先を見つけるだけのことです。
   しかし、起業者は資本を投下して事業を行なっています。事業を撤退したら投下した資本が返って来ない、すなわち損失を被るということがあり得ます。それが少なくない金額であり、とりわけ社員時代の退職金等をつぎ込んでいる、銀行からの借入金で起業したという場合には、辞めるに辞められないということが想定されます。
   事業を継続することに希望がない場合には撤退の検討も必要になります。投資の世界で、損切りを怖がって一層大きな損失を出すというのと同様です。これは大変な決断であり、早めに専門家に相談することをお勧めします。とりわけ、中途解約が困難であるような契約内容になっている場合には弁護士に相談してください。
(4)成功する起業のために
   筆者が今までに法律相談に乗った事例のほぼ全てが、起業事例としては失敗事例であることから記載した内容はかなり批判的で厳しい内容であることも自覚しています。しかし、日本におけるフランチャイズ加盟による起業の実情もまたこういうものである、ということは他の誰も(お金にならないことなので)言いたがらないことなので、あえてここで申し上げた次第です。
   どうか、今まで述べたことを他山の石として、失敗しないフランチャイズ加盟となることを心より祈念いたします。

契約するその前に

1 本部のプレゼンが上手いことは当該本部に加盟店を繁盛させるノウハウがあることを意味しません。「全店黒字」「撤退ゼロ」といった訴求力の強すぎるワードを用いて勧誘する本部には相当の注意が必要です。

2 本部との交渉内容や経過は全て漏らさず、記録しましょう。最近は、小型で優れたICレコーダーが安価で手に入ります。

3 本部から示された売上高や収益予測については納得できるまで何度でも根拠を問いただしましょう。本部からの提示額を特段の根拠なく「8掛け」して考えたところで何のリスクヘッジにもなっていません。示された数字の3割にも満たなかった例など多数あります。「モデル収益」を示された場合には、既存加盟店の何%がこの数値を上回っているのか必ず質問しましょう。

4 先に加盟している先輩オーナーに複数会って、じっくり話を聞きましょう。既存店オーナーに会うことを禁じたり、妨害したりする本部は限りなく危険です。

5 フランチャイズ本部や仲介業者等の契約の利害関係者ではない、第三者であるフランチャイズの専門家に加盟リスクを質問して下さい。その契約書には恐ろしい条項が山ほど含まれています。

6 家族の反対を押し切ってまで加盟することは大変危険です。親族に連帯保証人を頼むことは、あなたの負うリスクと全く同じリスクをその人に負ってもらうことと同じです。そもそも経営者以外の第三者保証人を徴求する本部は避けるにかぎります。

7 勧誘担当者が熱心に勧誘したり、「このエリアにはもう引き合いが来ている」などと契約を急がせたりするのはあなたのためにやっている訳ではありません。全て勧誘する側の都合(たとえば今月の契約ノルマ)です。

8 本部選びに失敗した場合には、仕事(前職)、資金(預金や退職金等)、労力、時間を失います。あなたの健康や良好な家族関係も危うくなります。そして人生を無駄にします。

9 開業資金やロイヤルティが他チェーンより安い事を、ノウハウがないことの言い訳にする本部もあります。売上低迷を本部指導員に相談しても「チラシを撒け」としか言わない本部もよく見かけます。

10 フランチャイズ加盟は結婚を決めるのと同じ位、人生で重要で難しい決断です。別れること(離婚=中途解約)は簡単ではなく、さらに多額のお金(慰謝料=違約金)がかかる場合がほとんどです。

11 「出口戦略」を本部社員が教えてくれることは絶対にありません。商売がうまくいったとしても、いつ、どうやって、うまく辞めるのか予め検討しておくべきです。


注意

 本ホームページをフランチャイズ本部社員ないし関係者あるいはフランチャイズ本部の代理人が、コピー・複製等により使用することはいかなる目的でも許可しておりません。