暗号資産

1 仮想通貨とは何か
(1)改正資金決済法の定義
   改正資金決済法が2017年(平成29年)4月1日施行された。同改正は「G7サミットにおける国際的な要請や、当時世界最大であった仮想通貨の取引所の破たん事案といった国内事情等に鑑み、利用者保護とマネー・ローンダリング対策を目的」としたという(金融庁)。
   
  第2条5項 この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

  ①電子的にのみ記録され移転できるのもので、②法定通貨又は法定通貨建ての資産ではなく、③広く誰にでも代金支払などに使える、ものということになる。

  仮想通貨は、「財産的価値」であって「通貨」ではない。したがって、金融商品取引法2条24項3号の「通貨」に該らない。同法2条1項の「有価証券」、同2項の「みなし有価証券」にも該らない。
  仮想通貨は先物取引やFX取引等のデリバティブ取引が提供されている。これは通貨や商品のデリバティブ取引とその実態において何ら変わるところはないものの、現状では金融商品取引法の「金融商品」の定義のいずれにも該当しないことから(※同法2条24項4号が「前各号に掲げるもののほか、同一の種類のものが多数存在し、価格の変動が著しい資産であつて、当該資産に係るデリバティブ取引(デリバティブ取引に類似する取引を含む。)について投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定めるもの(商品先物取引法第二条第一項に規定する商品を除く。)」と定めているので政令指定すれば該当することにはなる)、同法の規制を全く受けないことになる。
  果たしてこうした法的取扱でよいのか疑問が残る。

(2)仮想通貨の特徴
 ア 電磁的記録である
   仮想通貨は、取引記録(トランザクション)に関する電磁的情報をやりとりしているだけであり有体物ではない。(※Mt.Goxビットコイン引渡請求事件(東京地判平成27年8月5日)は、元利用者が破産管財人に対して破産法62条に基づく引渡を主張した。ビットコインが所有権の客体となるかが争点となったが、判決は有体性、排他的支配可能性を否定した。)
 イ 流通性と汎用性を持つ決済手段である。
   仮想通貨と似ているものとして電子マネーがあるが、電子マネーは使用できる相手が限られており、1回限りしか使えないため、転々流通性がない。国際間取引にも使えない。
   他方、仮想通貨は転々流通性があり、国際間での送金や決済にも使用可能である。
 ウ 国家権力の裏付けがない
   日本銀行が発行する日本銀行券は法定通貨として強制通用力を有する(日本銀行法46条1項、2項)。
   他方、仮想通貨に価値の保証はない。他の人が「マネー」として信用して受け入れるため、事実上「マネー」として通用しているものといえる。
エ 送金コストが安い
   銀行による送金と比べて、とりわけ国際間送金のコストは仮想通貨による方がずっと安いとされている。
(3)仮想通貨交換業者の規制
   改正資金決済法により、次のような規制がなされた。
 ア 登録制の導入(資金決済法63条の2)
  仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならないとされた。「仮想通貨交換業」については同法2条7項に定義既定がある。
 7 この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
 一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
 二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
 三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。
   金融庁のホームページによれば2018年1月17日現在で登録業者は16である。ただし、従前から営業している業者は登録申請「中」であっても営業を継続できるという抜け道がある。広告宣伝している業者だからといって、登録業者であるとは限らない。
 イ 利用者への適切な情報提供(同法63条の10)
仮想通貨交換業者は、内閣府令で定めるところにより、その取り扱う仮想通貨と本邦通貨又は外国通貨との誤認を防止するための説明、手数料その他の仮想通貨交換業に係る契約の内容についての情報の提供その他の仮想通貨交換業の利用者の保護を図り、及び仮想通貨交換業の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない。
 ウ 利用者財産の分別管理(同法63の11)
  仮想通貨交換業者は、その行う仮想通貨交換業に関して、内閣府令で定めるところにより、仮想通貨交換業の利用者の金銭又は仮想通貨を自己の金銭又は仮想通貨と分別して管理しなければならない。
   仮想通貨交換業者は、前項の規定による管理の状況について、内閣府令で定めるところにより、定期に、公認会計士(公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項に規定する外国公認会計士を含む。第六十三条の十四第三項において同じ。)又は監査法人の監査を受けなければならない。
 エ 取引時確認(犯罪収益移転防止法2条2項31号、4条)
 オ 疑わしい取引の届出(同法8条)

2 仮想通貨(ビットコイン)の仕組み
(1)中核はブロックチェーン技術
   ピア・ツー・ピア型ネットワークシステムとして構成されており、中核となるサーバはない。中央集権的な管理者もいない。
   参加者はビットコインアドレス(1で始まる34文字のランダム文字列)で識別される。
   取引記録(トランザクション)をネットワーク参加者全員で公開された台帳に記入する。10分間で世界中に起きた取引データを、「ブロック」という一つのまとまりに書き込む。「ブロック」への書込を行なうのが「マイナー」(採掘者)である。
   この「ブロック」が繋がったものが「ブロックチェーン」である。
(2)マイニング
   ハッシュ関数という、一方向に計算するのは簡単だが、逆の計算が極めて困難な関数がある。ある文献には、イメージとして、ものすごく大きな数の素因数分解は困難だが、素因数の掛け算自体は簡単というようなものだという説明があった。
   1つの「ブロック」には取引記録の他に「前のブロックのハッシュ値」と「ナンス」が記載されている。マイナーは、このようなハッシュ値となるようなナンスを計算する。ハッシュ関数の性質上、逆算は不可能であた、ひとつずつ当てはめていくしかない。
  この作業に参加したマイナーが最初に正しいナンスを見つけたら「発見した」と宣言する。そのマイナーが責任者となって、このこの10分間の取引は正しいというタイムスタンプを押す。
   発見したマイナーは報酬として一定のビットコインを貰う。
(3)プルーフ・オブ・ワーク
   参加者の内、悪意をもった者が記録の改竄を試みたとする。ブロックのデータが一部でも変わるとそこから導かれるハッシュ値が変わる。するとナンス値も変わるので膨大な計算が必要となる。一つのブロックには前のブロックのハッシュ値も記載されている。そうすると書き換えたブロックの次のブロックのハッシュ値も変わるのでナンスを計算しなおす必要がある。したがって全てのブロックの計算をし直す必要があるが、それはほぼ不可能である。
   この仕組みがプルーフ・オブ・ワークである。大量の「無駄な計算」を行なうため、多くのハードと大量の電力を消費するという。マイナーは中国が最大勢力であり、お大型の施設で安い電力でやらないと割に合わないという。
   ビットコインには、中央集権的な管理者がいないのに、悪意者をこプルーフ・オブ・ワークの仕組みによって排除し得ている。仮想通貨は決済手段向きというが、この計算と承認の過程で時間がかかる。
(4)ビットコインの分裂
2017年8月2日 ビットコインキャッシュ(BCH)が分裂
   同年10月24日  ビットコインゴールドが分裂開始
   同年11月24日  ビットコインダイヤモンドが分裂
   処理に時間がかかりすぎるということで対応策が検討されていたが、仕様改善を巡って、意見が対立した。仕組みが中央集権的ではないため、「民主的」に合議で決める他はない。結局、意見の対立が解けなかったため、「分裂」するに至ったという。分裂騒動は他にも複数あるが、支持されていないようである。
(4)感想
   悪意者を仕組みで排除し得ているブロックチェーン技術はよく考えられて構成されたものであり、思想的にはかなり興味深い。なお、この章は筆者の備忘メモ程度の内容であり、仕組みの説明としてもかなり省略がある。技術や仕組みについては、正確に説明している他の文献を参照されたい。

3 事態の進行と過熱、バブル
(1)先物市場設立
   米国でビットコインの先物市場が設立された。
   2017年12月5日  シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)
               ビットコイン先物上場
        12月10日 シカゴ・オプション取引所(CBOE)
               ビットコイン先物上場
(2)急騰、乱高下  
  2017年末から2018年初頭に掛けての急騰があり、その後の乱高下があった。仮想通貨交換業者がどんどんテレビコマーシャルを流すようになり、仮想通貨に関する新聞の報道、雑誌が仮想通貨特集を打つなどにより、取引参加者も増加しているようである。
  ブロックチェーン技術は注目に値するものの、仮想通貨自体は単なる取引記録(トランザクション)の羅列であり、それ自体に価値があるものではない。
  これだけ激しい値動きをするものであるが、仮想通貨交換業者によるFX取引や信用取引など、さらにリスクの高いレバレッジ取引の提供もされている。現状は完全にバブルそのものである。
  仮想通貨がここまで完全に投機の対象となり、乱高下が激しく、そもそも決済に向かなくなっているのではと思われる。

4 消費者被害のおそれ
  消費者問題を取り扱う弁護士として心配なのは、やはり仮想通貨に関する消費者被害、投資被害の増大である。
(1)劇場型詐欺
   仮想通貨に関する知識があまりない高齢者をターゲットとして「3倍で買います」などと証券会社を名乗る者から電話がかかり、現時点ではほぼ価値が認められない、あるいは価値の低い仮想通貨を取引価格の数十倍で売り付けるというものである。劇場型詐欺は、未公開株、社債、外国の紙幣など、時機に応じた「商材」が利用されてきた。
   今後とも、同種の投資詐欺は起こり得るだろう。
(2)ICO(Initial Coin Offering)
   企業が資金調達のため、トークン(デジタル権利証。将来的にはこれ自体も仮想通貨として取引する)を発行して、その対価として仮想通貨を払い込んでもらうというものである。企業は、払い込まれた仮想通貨を取引所で法定通貨に交換して資金を得ることができる。
   トークンの法的位置づけが不明である。「株式のようなもの」ではあるが、株式ではなく、配当等もない。トークンが仮想通貨だと、仮想通貨交換業者としての登録が必要となるため、仮想通貨ですらない。というより、あらゆる法規制に該当しないように設計されているという方が近いであろう。
   ICOに際しては、ホワイトペーパー(調達した資金の使い道やトークンの販売方法などをまとめた文書)が作成され、資金調達に応じて払い込みをする者はこれを解読して判断するしかないが、果たして、どのようにすれば、詐欺的なICOや成功する見通しのないICOを見極めることができるだろうか。
   大規模な投資被害が発生する前に法的対応をしておくべきではなかろうか。
(3)有象無象の仮想通貨
   仮想通貨は2018年1月時点で既に1500種を超えていると言われている。何かは違法な取引に利用されているものもあるという。金融庁の事務ガイドラインでは、仮想通貨交換業者に対して取り扱う仮想通貨は「適切」なものに限るよう要請しているが、外国の業者を利用すれば「適切」ではない仮想通貨も購入できてしまえるという問題は残される。
(4)仮想通貨交換業者らの破綻による被害
   仮想通貨交換業者の破綻による投資家の被害も既に発生している。著名なところでは、Mt.Gox事件がある。2014年2月破綻し、民事再生を申し立てた後、破産に移行した。代表者らによる業務上横領が問題とされている。
   リップルトレードジャパンは2015年3月営業停止、2017年10月に強制捜査を受けたと報じられた。新聞報道によれば、代表者が顧客の資産を私的に流用した疑いが持たれている。
   48ホールディングスは「クローバーコイン」という仮想通貨のマルチ商法を行なっており、特定商取引法違反があったとして、2017年10月、消費者庁が同法違反で連鎖販売取引停止命令(3か月)を出した。
   韓国の取引所であるが、ユービットが2017年11月19日、ハッキング被害にあい、破産手続を申し立てたと報じられている。                                            2018年1月26日、仮想通貨交換業者では大手のコインチェックが外部から不正アクセスを受け、仮想通貨NEMのほぼ全額580億円が流出したと報じられた。仮想通貨交換業者のシステムの脆弱性が露呈したものといえる。これはブロックチェーン技術の堅牢性とは別の問題である。同社はテレビコマーシャルなどの広告を出しているが、未だ登録されておらず、登録申請中の「みなし業者」である。「仮想通貨バブルの終わり」の始まりを感じる(2018年1月27日追記)。
(5)端末乗っ取り-マイニングに使われる
   パソコン利用者が、ブログラムが仕組まれたサイト閲覧して感染し、端末を乗っ取られて、勝手にマイニングに利用されるという被害が発生している。
(6)金融庁ホームページより
   仮想通貨取引のモニタリングで判明したものとして下記の事案を報告している。
 ・取引所自らが仮想通貨を発行し、それを自らの取引所で取り扱うスキームが登場
 ・仮想通貨の開発者等によるプレ・マイニング(新たな仮想通貨の一般公開前に開発者等がマイニングを行うこと)
 ・海外でICOによる資金調達が急拡大しており、国内でも実施例が徐々に増加
 ・仮想通貨取引量のうち、レバレッジ証拠金取引が大きなシェアを占有
 ・価格急変時のサーキットブレーカーを導入していない業者も存在
 ・海外無登録業者による国内での勧誘の動き
 ・セミナーで勧誘する詐欺コイン案件の発生
(7)小括
   仮想通貨を巡る現実はどんどん進行し、過熱し、留まるところを知らない。他方、規制されない、あるいは規制が十分でない領域で消費者被害が発生し、一層拡大するおそれがある。
   なお、トランザクションは全て記録され、公開されているので、ビットコインアドレスやリップルアドレスを特定できると、その者の取引履歴全てを確認することができる。履歴を追うとマネーロンダリングを疑わせる資金移動が見られ、大きな問題ではないかと感じる。

 5 仮想通貨交換業者を第三債務者とする債権執行
(1)債務名義取得
   当職が担当した事案は、前述した劇場型詐欺に関するものであった。複数の証券会社と名乗るものが電話を掛けてきて、「購入価額の数倍で売却できます」といって、仮想通貨を取引価格の数十倍の価格で購入させられた。
   銀行口座への送金がなされている場合、振り込め詐欺救済法による口座凍結申請は振り込め詐欺に限らず犯罪行為に関するものであれば利用可能で、これを検討することになる。
   訴訟提起にあたっては、最判平成20年6月24日(判時2014号68頁)が反倫理的行為にかかる反対給付について損益相殺を許さないと判示しており、購入させられた仮想通貨が被害者のウォレットに入っているとしても、損益相殺しないことに留意しておくべきである。
(2)債権執行
   仮想通貨交換業者の利用者は、仮想通貨交換業者に対して、保管している仮想通貨等につき、売買、交換、両替、寄託等に関する契約に基づく、仮想通貨等の返還請求権ないし、これに準じた債権を有しているものと想定される。したがって、加害者がどこかの仮想通貨交換業者にウォレットを有していることが判明した場合には、上記債権について債権執行を行なうことが考えられる。
   小職が藤井裕子弁護士と共同受任した事案で、仮想通貨交換業者を第三債務者とする債権差押えが発令された事例として、さいたま地決平成29年7月24日がある(藤井弁護士の論文として金融法務事情2079号6頁)。
   仮想通貨交換業者はこうした債権差押えに適切に対応する体制を整えておくべきであろう。
(2018年1月25日記)。

 なお、さいたま地決平成30年4月5日で、仮想通貨交換業者を第三債務者とする債権差押えが再度発令されている(公刊集未登載)。