フランチャイズ契約概要書面を読み解く

我が国においても、中小小売商業振興法において、当該フランチャイズ事業が、特定連鎖化事業(11条)に該当する場合には法定書面(概要書面)事前に加盟希望者に交付し、その説明をしなければならないとされている。商品の販売を伴うフランチャイズであれば、多くは特定連鎖化事業に該当する。なお商品の販売を伴わないサービス業にかかるフランチャイズであっても、日本フランチャイズチェーン協会の自主開示基準に則って、同様の概要書面を交付している例もある。

かかる規制は、他国の立法からすれば極めて不十分な開示規制といわざるを得ない。ただし、加盟を真剣に検討している者においては、内容を全てみるのは当然として、精査すべき項目が入っている。それは直近3事業年度の加盟者数の推移(新規加盟者数、中途解約件数、更新された件数、更新されなかった件数)及び訴訟件数(加盟者から提訴された件数、本部が提訴した件数)である。

当該フランチャイズに加盟を検討する者が何故この項目を精査すべきなのか。それは、当該フランチャイズ加盟による起業の失敗率を示す指標となるからである。フランチャイズ加盟による起業を検討している人は、少なからぬ初期投資をし、さらには銀行の融資を受け、自らの労働力や時間も投下して、それ以上のリターン(利益)を得ることを目標としているはずです。当該フランチャイズが全体として順調に行っているのであれば、新規加盟者数に比べて中途解約数はずっと少ないはずです。そして順調な経営が出来ているのであれば加盟者としては契約を更新しない理由も通常はないはずです。新規加盟者数(あるいは加盟者総数)に対する中途解約件数や更新しなかった件数の割合はまさに起業の失敗率と比例します。

そして、本部と訴訟になるというのは、元加盟者側からの提訴であれ、本部からの提訴であれ、起業としては究極の失敗例です。究極の失敗例が複数あるというのであれば、加盟を検討している者としては最大級の慎重な調査が必要になるということです。

当職は事件処理に関連して、ある貴金属等買取り系のフランチャイズチェーンの概要書面を複数年分検討するということがありましたが、次のような数字になっていました。(なお、1通の概要書面には通常最低限の3年分しか記載がありません。)

年度    フランチャイズ店舗数  新規加盟数  中途解約数
2008     13         18      5
2009     84          82     13
2010     191        130      7
2011    248         106     49
2012    254          84      67
2013    293          92      46
2014    286          67      74

新規加盟者数に比して中途解約数は驚くほど多いです。新規加盟者総数579名に対して、中途解約となったのは全部で261名ですから、解約率は45.1%です。直近の加盟者に限定したら解除率はもっと高い可能性もあります。せっかく安定して起業したいと考えて加盟金やロイヤルティという対価を支払ってフランチャイズ加盟するのに、2人に1人は失敗してしまうものを選択してしまうのというのは、果たしてこれで良いのでしょう。

さらに、驚くのは次の訴訟件数です。
年度     訴訟件数     本部から提訴した件数
2012     5          0
2013    34         33
2014     5          4

全体で300社弱程度の加盟者しかいないのに、これだけ多くの裁判を抱えている本部というのは、当職も15年間フランチャイズ問題に関わっていますが初めてみました。他のフランチャイズ本部が訴訟になる割合がどの程度なのか、例えば、ザフランチャイズで開示されている大手コンビニチェーンの概要書面の同項目の記載内容を見て、比べてください。1万5000店以上店舗がある本部でも訴訟件数はせいぜい年間1、2年程度です(もっとも、だからコンビニ加盟が良いと勧めている訳ではありません。)。

大切なお金を何百万円も掛けるのですから、いかに加盟前の事前の徹底した調査が大切であるか、よく考えて頂ければと思います。
 

2016年08月23日